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神経質すぎる利用者さんとの思い出 ③引けない理由

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介護
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前回に引き続き、神経質すぎる利用者さんとの思い出をお話していきます。

「細かさ」がその方にとっては生活に大きな影響を与えること。
その事実は支援側全体に「責任感の暴力」となっておそいかかってきました。

その話の続きとなります。

追いつめられて

その方の介助に入るようになって半年もした頃。この間に先輩職員の異動や退職によって介助に入る周期が以前よりも短くなり、いよいよ追いつめられたような感覚になりました。


この「追いつめられる」というのは、その方自身にもあてはまったのでしょう。
信用されていないのは醸し出す空気感でわかりますが、入職当時に比べれば小言が少なくなりました。

対応する職員が減ったから渋々受け入れているが納得はしていない。
今までのようにはいかず、かといって愚痴を言うだけでは変わらない事実を受け入れざるを得ない。

お互いにどうにもならないもどかしさを感じ、それが不気味な沈黙を生み出していました。

いつ爆発してもおかしくない。
爆発したときはいよいよ退所か、それとも役所を絡めた大事になるか。

それくらいの危うさを抱える緊迫した状態になっていたのです。



この膠着を破ったのは、意外にもその方からでした。


就寝介助に入ったある夜のこと。時刻は20:45ジャスト。
ドアをノックして訪室すると、その方は変わらず不快そうな表情で僕を迎え入れました。

どうやら応援している野球チームがまた負けてしまったようで、これから介助に入る僕としては(せめて勝ってくれれば多少気も紛れてくれたのに…)と内心思いました。


いつもと変わらず、その方の指示通りにパジャマに着替えていきます。

袖・裾・ズボンの高さや向きなど寸部の狂いなく淡々とこなしていく僕。

前日には先輩が参った表情でその方の部屋から戻ってきて「また説教された~」と嘆いていたのもあって、それを引きずっているならその余波が僕にも来るだろうなぁとひやひやしていました。

その震えも半年余りで鍛えられた「その方用の技術」が見事に覆い隠してくれて、着替えは難なく済みました。
そうして残すところ「眼鏡洗浄」のみになったところで、おもむろにその方が口を開きました。


「今じゃもう、あなたくらいしかしっかりやってくれる人がおらんわ」


その言葉に、僕は動きを止めてその方のほうへ振り向きます。


「僕はどうしても『ちょっとのこと』が気になって仕方がないんだわ。どうしてこんな風になってしまったんだかなぁ…」


それまで不快そうな表情を向けていた人とは思えないほど素直に、物寂しげに語るその方。
あまりのことに言葉が返せませんでした。


「こんなこと言われても困るだろうけど、これからもよろしく頼むね」

「人のつまずかないところでつまずく」人にこそ

就寝介助を終えて介護室に戻っても、僕はその時のことを誰にも言えませんでした。
先ほどのことが現実なのか頭の中で整理がつかず、その意味が理解できなかったのです。

この施設にいる誰もが「その方の「細かさ」が生み出すものをその方自身が自覚できていない」と思い込んでいたのです。自覚できていないからこそ無理難題を平気で求めてしまうのだと。


しかし、それは間違っていました。


その方は自分の「細かさ」が及ぼす影響を理解していて、それが職員を苦しめているとわかったうえで、それでも「細かさ」を求めざるを得ないほど追いつめられていたのです。

「どうしてこんな風になってしまったんだかなぁ」と嘆き、「こんなこと言われても困るだろうけど」と人を気遣える人が、それでも自分の「細かさ」によって自分も他人も傷つけてしまう不条理に抗えずに孤独になってしまっていたのです。


この状況には、僕にも通じるものがありました。


その方の状況は、12歳の頃に「コミュニティからの拒絶」と「コミュニケーションへの絶望」を感じ取って独りになってしまった当時と似ていました。

自分の理屈でしか自分は救われないと誤解して他人を拒絶し続けてきたあの頃の僕と。
自分の「細かさ」でしか自分は生きられないと受け入れて他人と衝突し続けたきた僕と、あまりにも似ていたのです。


だとしたら、そういった「人のつまずかないところでつまずく」ようなその方に誰よりも寄り添える可能性があるのは僕しかいない。

何よりも、それが人よりもつまずいてばかりだった自分が福祉の中で居場所を見つけられた根拠だったはず。


そこから目を逸らせられるか?


逸らせるはずもない。


そう思ったとき、僕はもうその方の味方をするより他ないと決めました。

~ つづく ~

小休止 ~引けない理由~

「逃げ出したくなる現実」というものは誰にでもあるのでしょう。

立ち向かうにはあまりに過酷で、不条理で、採算が合わないような出来事を目の前にしたら、何はともあれその被害を受けないよう逃げ出すのが普通です。


しかし逃げ出すことで自分が大切にしている、もしくは大切にしたい想いが脅かされてしまう場合はどうでしょうか。


「今ここで逃げ出せば後には引けなくなる」


人生においてそう感じる時が何度かあったことでしょうし、まだ感じたことのない方でも2020年は誰にとっても「その時」でした。

「この一年をどう過ごしたか」は今後の数十年を大きく左右することになるでしょうし、現状は未だ回復傾向にあるとは言えませんから「今年まだ何もしていないなぁ」という方は今日から一日の過ごし方を見直すのもよいでしょう。


また「介護士」で言えば、これまでの記事「コロナ禍で介護士として思うこと。」や「コロナ禍で問われる「介護士として働く意味」」でも触れたように、公私ともに新型コロナウイルスと直面している介護士の働き方はあまりにも多くの方の生活あるいは生命に影響を与えています。


ですから、介護士として働くためには(リスクの高さも相まって)「働く意味」を見つけた方が良くて、ここの意味が薄いと「逃げ出したくなる現状」を前に立ち向かうことがむずかしくなります。

介護職の年収は全職業の中で平均以下であるにもかかわらず業務は重労働。
施設という閉ざされた空間がもたらす独自ルールや人間関係にさいなまれ、心身ともに疲れ果ててしまうことが多々あります。

ここに加えて新型コロナウイルスの脅威があるわけですから、介護・福祉は現状「なんとなく」とか「他に仕事がないから」といった外付けの理由で働くには「過酷で、不条理で、採算が合わない」仕事なのです。

迷いが生まれて当然と言えますね。


そういったこともあり、自分の心の内側にある「生きるうえでの核の部分」すなわち「引けない理由」を持つことは、混迷する社会においても「どう生きるか」を迷わず突き進む力になると言えます。


なぜなら「外付けの理由」は受け取る自分次第で何とでもなりますが、自分の心から沸き上がる「引けない理由」に背くと心が不安定になり、心から発生している以上その不安から逃げ切れないからです。

場合によっては背いたことで「なぜ自分の大切な想いを曲げてまで生きているのか」すら自分自身に問われてしまいます。


それは想像以上の苦しみをもたらしますから、その反発力として「引けない理由」が推進力へと切り替わるのです。

とはいえ、です。
多くの方にとって、自分の感じる不安と向き合うのは難しいことでしょう。

「不安を直視する」というのはそれだけで根気が要りますし、「なんとか騙し騙しやっていくほうが人生楽しめるんじゃないか」という甘い誘惑が頭の中でぐるぐる回っていくことでしょう。


しかし最初は自分を騙していけたとしても、人生の終盤で心身ともに限界が訪れます。

おいしい食べ物やお酒で不安を解消しようとすれば糖尿病や肝硬変などにさいなまれる可能性は高くなる一方ですし、ギャンブルや暴力的表現などの「強い刺激」で自分の心をごまかそうとすれば依存症となり刺激がなくては生きていけなくなります。(そしてある時点でその刺激は一方的に奪われます)


僕は介護士としていろんな方の人生に寄り添い、自分と向き合いハツラツと生きてきた方と自分から目を逸らして騙し騙し生きてきた方とでは人生の終盤における幸福度に「天と地」の差があることを見届けてきました。


若い頃は自分の力で何とかすることができるのですが、年老いていくとそうはいきません。
朝起きて着替えをするのでも、ご飯を食べるのでも、お風呂に入るのでも、どこかのタイミングで人の助けが必要になります。

そのとき、自分を助けてくれる方は誰でしょうか?
自分の側にいてくれる方は、自分を快く助けてくれるでしょうか?

それを決めるのは「それまで辿ってきた人生」に他なりません。


2020年現在、多くの方は「自分の力で何とかできる」地点にいるかと思います。
「人生の終盤なんてまだまだ先」と思わずに「今ここから」自分と向き合っていきましょう。

早ければ早いほど、心の安定がもたらす恩恵はあなたを幸せに導くのですから。


自分との向き合い方に関しては

介護士が自分と向き合わないとどうなる?
自分と向き合おう ①分析してみよう
自分と向き合おう ②検証してみよう
自分と向き合おう ③実践してみよう

にそれぞれ詳しく書いていますので、ぜひ読んでみてください。


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