介護の「生産性」を上げるのは誰のためか

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2021年10月12日、日本経団連の「今後の医療・介護制度改革に向けて」内、介護制度改革において

「質の高い介護サービスの提供」を目的に「介護現場の生産性向上に向けた取り組み」の継続が不可欠

だと述べられました。

そしてその手段として「介護ロボットやICTなどのテクノロジーの活用促進が有効」とし、その為の施策を強力に展開していくことが求められる、と。


これを受けて今回は「介護の生産性」について学んでいきます。

そもそも「介護の生産性」とは?

介護の生産性を考えるにあたって、まずは定義から見ていきましょう。

生産性(せいさんせい、Productivity)とは、経済学で生産活動に対する生産要素(労働・資本など)の寄与度、あるいは、資源から付加価値を産み出す際の効率の程度のことを指す。より少ないインプットからより多いアウトプットが得られるほど、より生産性が高いという関係にある。

労働生産性(Labour productivity)とは、労働力(単位時間当たりの労働投入)1単位に対してどれだけ価値を産めたかを指す。マクロ経済学において部分的生産性とは、一般的に労働生産性のことである。その際、生産量を物的な量で表す場合を特に「物的労働生産性」、金額(付加価値)で表す場合を「付加価値労働生産性」と言い、一般的な経済指標で単に「労働生産性」と言った場合、通常は後者を指す。

生産性 ーWikipediaー


生産性の定義から「介護の生産性」を考えていくと、それは「生産性」の中の「労働生産性」にあたることが見えていきます。

介護職員一人当たりの「介護サービス提供の質・量」が「介護の生産性」なのだ、と。


それを裏付けるように、厚労省の「より良い職場・サービスのために今日からできること(業務改善の手引き)」では、介護の生産性とは以下に挙げる『業務改善』を軸に介護の質を維持・向上しつつ、急増・多様化する介護ニーズに的確に対応できるようにすること、と示されています。

1.職場環境の整備
2.業務の明確化と役割分担:(1)業務全体の流れの再構築
              (2)テクノロジーの活用
3.手順書の作成
4.記録・報告様式の工夫
5.情報共有の工夫
6.OJTの仕組みづくり
7.理念・行動指針の徹底


これらの『業務改善』の中には5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)と3M(ムリ・ムダ・ムラ)といった概念のほか、施設の目標や取り組み成果イメージなど、業務改善への具体的な指導が記されています。

要素概要介護現場における事例
整理要るものと要らないものをはっきり分けて、
要らないものを捨てる
保存年限が超えている書類を捨てる
整頓三定(定置・定品・定量)
手元化(探す手間を省く)
紙オムツを決まった棚に収納し(定置・定品)、
棚には常に5個(定量)あるような状態を維持し、
取り出しやすく配置する(手元化)
清掃すぐ使えるように常に点検する転倒防止のために常に動線上を綺麗にし、水滴などで滑らない
ようにする
清潔整理・整頓・清掃(3S)を維持する
清潔と不潔を分ける
3Sが実行できているかチェックリストで確認する
使用済みオムツを素手で触らない
決められたことを、いつも正しく守る習慣を
つける
分からないことがあったとき、OJTの仕組みの中で
トレーナーに尋ねることや手順書に立ち返る癖をつける
要素概要介護現場における事例
ムリ設備や人材の心身へ
の過度の負担
キャリアの浅い職員がいきなり1人で夜勤になる
体重80kgの男性利用者のポータブル移乗を女性介護職員1人で対応する
ムダ省力化できる業務利用者を自宅に送った後、忘れ物に気付き、もう一度自宅に届ける
バイタルなどの記録を何度も転記している
ムラ人・仕事量の負荷の
ばらつき
手順通りに作業する職員と自己流で作業する職員、状態に応じて介助する職員がいる
曜日によって、夕食の食事介助の介護スタッフ数がばらつき、食事対応に差が生じる
介護記録の研修もなく、記録の仕方が職員によってマチマチで正確に情報共有がなされない


こうした指導の下で介護業務の改善を図れば介護の生産性は増し、サービスの質を維持・向上できると考えるのが「介護の生産性」を考える上での基準となります。

「介護の生産性」が介護ニーズを満たす

次に介護の生産性向上がどのように介護ニーズを満たすのか、について考えていきます。
その為にはまず「介護ニーズとはなにか」を見ていくことになります。

ニーズ「needs」とは「必要」「要求」などと訳されます。

ソーシャルワーク(社会福祉援助技術)やケアマネジメントにおいては、アセスメント(利用者や家族の希望や生活の全体像を把握するために、さまざまな情報を収集・分析すること)によって抽出される「生活全般の解決すべき課題」のことを「ニーズ」といいます。

つまり、「それが解決できれば、希望とする生活や活動が可能になる」という課題のことです。

ニーズ ー介護情報かながわー


介護ニーズが「生活全般の解決すべき課題」であれば、介護サービスの質が維持・向上されることでそのニーズが満たされるのは、イメージがつきやすいものです。


例えば「清潔を保ちたい」というニーズがあり、本来であれば自分一人で行えるところが認知症などによって着替えや体を洗うことができなくなってしまった場合、訪問介護や訪問入浴などの入浴介助等が必要となります。

この時、上にあげたような5Sや3Mの業務改善がなされていなければ

① 入浴準備・後片付けの段取りが悪く、必要とする介助に十分な時間を割けなくなる
② 1人介助では物理的・精神的に困難な方の介助を職員1人に任せてしまう
③ 介護職員によって「介助の仕方」が異なり、十分に体が洗えていなかったり湯温が適していなかったり、状態変化を見逃したりしてしまう
④ 情報共有が十分なされておらず、「今」の利用者の状態を理解しないまま介助を行い怪我や事故のリスクを高めてしまう
⑤ 記録の取り方が統一されておらず、他事業所のみならず自事業所ですら情報が正確に伝わらない


このような問題が生じてしまい、月日を積み重ねるごとにサービスの質は低下、それに合わせて利用者のADL(日常生活動作)も低下してしまいます。

利用者・家族にしてみれば「その事業所さえ選ばなければこんな目に合わずに済んだのに」と思わざるを得ない状況です。


一方で①〜⑤を改善して介護業務にあたった場合、利用者情報がきちんと共有され、質の高い介護サービスをさまざまな場面で提供されることになります。

一つひとつの介助が適切に行われることで快適にお風呂に入れますし、もし利用者自身が気づいていない身体の変化があったとしても介助者が気づいて看護師に報告、早期発見・早期治療につながっていきます。


このように介護業務が適切に行われていくと「介護の生産性」が保障され、急増・多様化する介護ニーズに対応する道筋となるのが見えてきますね。

介護ロボットやICTなどの「テクノロジーの活用」

最近では介護ロボットやICT(情報通信技術)などのテクノロジーの活用が介護現場の課題解決に一役買うようになりました。

厚生労働省の「介護ロボットの開発・普及の促進」では、

・情報を感知(センサー系)
・判断し(知能・制御系)·
・動作する(駆動系)


ロボットをこれら3つの要素技術を有する、知能化した機械システムと述べています。

そしてこれらのうち「利用者の自立支援」や「介護者の負担軽減」に役立つ介護機器を『介護ロボット』と呼ぶのです。

またICTとは「情報通信技術」のことであり、介護ロボットと他の機器との間で情報のやり取りをして、通常なら時間や労力の掛かる「移動」や「記録」などの負担を軽減させます。


例えば移動支援であれば「装着型パワーアシスト」「歩行アシストカー」であったり、見守りでは「見守りセンサー」などもあります。

【装着型パワーアシスト】 イノフィス マッスルスーツEvery ソフトフィット

[良い点]
・圧縮空気を利用して、重量物を扱う際や中腰の姿勢での作業をする際の腰への負担を軽減。
・電力不要、最大で25.5kgfを補助。防塵・防水性能:IP56(塵や水への耐性が高め)

[注意点]
・装置自体の重さは軽量ながら3.8kg。またサポートされるのは腰であり腕ではない
・購入時にはサイズを確認


【歩行アシストカー】 RT.ワークス 自動制御機能付き歩行器 ロボットアシストウォーカーRT.2

[良い点]
・歩行する路面状況を各種センサーで自動判別。電動アシストにより上り坂は軽く楽に登れ、下り坂は自動ブレーキで減速し安全に下れる。
・使用者の身体機能に合わせて、アシスト、ブレーキ、速度の調整をきめ細やかに64通り設定。

[注意点]
・「歩行器」としては高額。
・ハンドル高さは72.5~85cm。販売サイトには81.5~94cmのTallサイズあり。


【見守りセンサー】 【最新強化版400万画素】ネットワークカメラ 室内監視カメラ IP防犯監視カメラ Wi-Fi AI人体検知 ベビーモニター ペットカメラ GENBOLT

[良い点]
・AIによる人体感知。暗視機能。動体検知や録画設定等をカスタマイズ可。双方向会話など機能多数。
・各種スマホとのアプリ連動で遠隔操作。

[注意点]
・WiFi環境(2.4Ghzのみ)が必須なので、利用宅のWiFi環境を確認。
・mac、Windowsの対応は無し。


こうした介護ロボットとICTを利用することで腰を痛めず介助したり、歩きにくい坂を登ったり、夜間常に側で付き添ったりせずにいられるわけですね。


すでに介護を経験されている方や介護士にとって、そうした労力が軽減されたり解消されたりするのは心底助かるものです。

「介護に腰痛はつきもの」と言われるほど介護は腰痛になりやすい動作が多く、また夜間帯の付き添いは時に夜通しになる日もあり、それが毎日続くようだと介護者の生活が成り立ちません。


それが介護ロボット一つで改善されるなら「生産性」が上がったと言っても差し支えないでしょう。

まとめ 〜介護の生産性は「介護者」を救うが…〜

ここまで介護の生産性について定義から介護ニーズ、介護ロボットやICTなどについてお話ししてきました。

その一つひとつが「介護の質」を上げる可能性は高く、各場面で導入できる部分は早めに導入したほうが良いと言えます。


ただ、この「生産性」には一つ大きな落とし穴があります。
それは「介護を受ける利用者」についてあまり語られていないことです。


確かに介護業務の改善や介護ロボットやICTなどのテクノロジーを活用すれば「介護する側」の生産性は上げられるでしょう。しかしそうした介護を受ける側、すなわち利用者については「急増・多様化した介護ニーズに対応」されることくらいしか触れられていません。


改めて「介護の生産性」の定義を見直せば「介護者→利用者」という一方通行の生産性だとわかり、ここには「介護の主体は利用者にある」という『利用者本位』の視点が欠けているのです。

そうなれば自ずと「介護者の価値観」によって介護の質が定義され、その介護を受ける利用者の価値観は反映されにくくなります。

特にこれからは「科学的介護」によって科学的根拠に基づくとされる介護を(一方的に)提供される流れとなっていきますから、より「利用者本位」から離れた『正解の介護』を施されるようになるでしょう。


この『正解の介護』とは「介護者にとっての正解」であり、利用者にとっての正解とは言えないものです。


なぜなら科学的根拠に基づいた『正解の介護』とは「データ上の最適解」を導くことはできますが、「その場、その時の利用者に対する正解」を的確に導き出すものではないからです。それは「統計上このような介護が相応しい」とは言えるけれど「いま目の前にいる相手の状態」にそれが合っているかはわからない、ということです。


もし介護者が「科学的根拠に基づいているのだから」と科学的介護が相手に合っているかを疑わずに提供してしまった場合、相手の状態を無視した『一方通行の介護』を行うことになります。

そうなると利用者心理として「こんなことは求めていない」と反発したり、「本当は違うけど科学的にそれが正しいというならそちらが正解なのだろう」と誘導されたりする可能性が高くなりますから、「利用者本位」とはかけ離れていくわけですね。

例えば「コミュニケーションロボット」による会話の誘導は利用者の個人情報開示を誘導する危険性もあり、介護者は「個人の尊重」という観点からその扱いが適切かどうかを都度議論した方が良いでしょう。


人は一度「便利さ」を経験すると、なかなか元には戻れません。


介護ロボットやICTなどのテクノロジーの活用によって「利用者の『尊厳』や『主体性』」がそれらに奪われていないかどうかを、介護者は常に念頭に置きながら目の前の『人』と向き合うことが求められるのです。


介護ブログの他にも、介護ニュース等などを取り上げるnote、読書にまつわるアメーバブログを運営しております。



また僕が介護を考えるうえで参考になった書籍を紹介しますので、よかったら一度読んでみてください。


本からの学びは揺るぎない自信へとつながっていきます。

介護を自分の「感情」頼りにするのではなく、知識や経験に裏付けられた「事実」と併せて行うことで、介護はすべての人を豊かにしていくことができるのです。


一緒に学んでいきましょう。


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