「入所すれば安心」のはずが――施設入所後によくある困りごとと、家族の向き合い方

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家族介護
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施設への入所が決まったとき、「これで少し肩の荷が下りる」と感じた家族もいるでしょう。

ところが、面会へ行くたびに「家に帰りたい」と言われる。
施設の対応に気になることがあっても、今後の関係を考えると言い出しにくい。
どこまで施設に任せ、家族はどのくらい関わればよいのかも分からない。

入所によって在宅介護は一区切りしても、家族の悩みがすべて消えるわけではありません。むしろ、これまでとは違う迷いが生まれることがあります。


介護福祉士として15年以上現場に携わってきた立場から、この記事では、施設入所後に家族が直面しやすい困りごとについて考えます


※本記事は一般的な情報をもとに構成しています。個別の状況への対応に迷う場合は、施設の相談員やケアマネジャー、市区町村の担当窓口へご相談ください。虐待や重大なケア不足が疑われる場合は、施設内だけで様子を見ず、速やかに市区町村の高齢者虐待相談・通報窓口へ連絡してください。


①「帰りたい」という言葉と、どう向き合うか

面会のたびに「家に帰りたい」と言われれば、「入所させた判断は間違っていたのではないか」と心が揺れるのも無理はありません。

ただ、その言葉を聞いて、すぐに説得したり気持ちを鎮めようとしたりする前に、確かめておきたいことがあります。

「帰りたい」と話す理由を決めつけない

「帰りたい」という言葉の背景は一つではありません。例えば以下のようなケースが考えられます。

  • 便秘、脱水、痛み、薬の影響などによる体調不良
  • 職員や他の入所者との人間関係
  • 孤独感や退屈、施設での役割がないこと
  • 入所や現在の生活に本人が納得できていないこと
  • 不適切なケアや身体拘束など、生活環境の問題


環境が変わったことへの不安かもしれませんし、施設での暮らしに対する具体的な訴えかもしれません。認知症があるからといって、本人の言葉を最初から「症状」として処理してしまうのは危険です

厚生労働省の資料でも、認知症の人の行動については、本人の状態と環境の両面から理由を考え、個別にアセスメントする必要性が示されています。

まずは、「どこへ帰りたいのか」「家に帰って何をしたいのか」「今の暮らしで嫌なことや困っていることはないか」と、本人のペースに合わせて聞いてみることが出発点になります。


本人と家族、どちらか一方だけで決めない

本人が帰宅を望んでいても、家族の生活や介護力を考えると在宅生活へ戻ることが難しい場合もあります。だからといって、本人の希望を聞かなくてよいわけではありません。


大切なのは、入所を決めた家族の事情を踏まえながら、本人がなぜ帰りたいのかを確かめ、現実に実行できる対応を探すことです。帰宅そのものが難しくても

  • 家族と話す機会を増やす
  • 外出や一時帰宅を検討する
  • 施設内で本人の役割や過ごし方を見直す など


このように、帰りたい理由に応じて別の方法を考えられることがあります。


厚生労働省は認知症があっても、本人が意思を形づくり、表明し、可能な範囲で実現できるよう支えることを重視しています。「できるか、できないか」だけで終わらせず、どこまでなら実現できるかを本人、家族、施設で考える。その過程が意思決定支援になります。

本人の気持ちを聞いたうえで、「帰りたいんだね」と受け止めたり、居室に自宅の写真や思い出の品を置いたりすることも安心につながる場合があります。ただし、これらは本人の訴えを鎮めるためではなく、少しでも落ち着いて暮らせる環境を一緒につくるための工夫です。


変化が急なときは、施設や医療職へ相談する

「帰りたい」という訴えが急に強くなった場合や、食欲が落ちた、元気がない、眠れていない、普段と様子が違うといった変化が重なっている場合は、環境への不安だけとは限りません


体調不良や薬の影響、施設内での人間関係などを確認するため、早めに職員や医療職へ相談してください。施設のケアマネジャーや生活相談員に話し、必要に応じてケアプラン(施設サービス計画)の見直しを求めることもできます。

特別養護老人ホームでは、施設サービス計画について本人または家族へ説明し、本人の同意を得たうえで、入所後も継続的に状態を確認して見直すことが基準として定められています。


面会がつらいときは、距離を置いてもよい

面会のたびに「帰りたい」と言われ続ければ、家族の心もすり減っていきます。つらいときは、まず面会前後の本人の様子や、家族がいないときの過ごし方を職員に確認してみてください面会中に見せる姿と、普段の姿が違うこともあります

体調や生活環境を確認し、必要な対応を施設と共有したうえであれば、一時的に面会の頻度を落とすことも選択肢です。家族が休むことと、本人への関心を失うことは同じではありません。電話で様子を聞くなど、無理のない方法でつながりを保つこともできます。


緊急性があるサインを見逃さない

ここまでお伝えした「理由を確かめる」「施設と話し合う」という進め方では足りない場合があります。

  • 説明のつかない傷や、急激な体重減少がある
  • 食事、水分、排泄などの基本的なケアが行われていない疑いがある
  • 不適切な身体拘束が疑われる
  • 職員による暴言威圧的な態度がある
  • 金銭に関して不審な点がある
  • 事故について十分な説明がない
  • 本人が特定の職員を強く怖がっている


こうした状況は単なる要望やクレームではありません。高齢者虐待や重大な権利侵害の可能性があります。実際に介護職員による高齢者虐待は過去最多を更新しており、2024年度には高齢者が介護施設の職員などから虐待を受けたとされた件数は前の年度よりも8.6%増え、1220件となっています。

そのため、施設内のやり取りだけで解決しようとせず、施設所在地の市区町村にある高齢者虐待の相談・通報窓口へ連絡してください。生命や身体に差し迫った危険がある場合は、警察や救急への連絡も必要です。


②施設への要望を、どう伝えるか

施設の対応に疑問を感じても「クレームだと思われたくない」「本人への対応が悪くなったら困る」と考え、言い出せない家族はいます。

しかし、気になったことを確認するのは本人の生活を守るために必要な行動です。家族が感情を抱くこと自体も当然であり、無理に抑え込む必要はありません。そのうえで、施設へ伝えるときには気持ちと事実、求める対応を分けて整理すると話が進みやすくなります。

事実と希望を分けて伝える

伝える前に、次の点を整理しておくとよいでしょう。

  • いつ、どこで、何があったのか
  • 本人にどのような変化や不利益があったのか
  • 施設に確認したいことは何か
  • どのような対応を希望するのか
  • いつまでに返答してほしいのか


日時や職員から受けた説明、本人の様子を記録しておくことも大切です。施設の説明を聞いた結果、家族が知らなかった事情が分かることもあります。一方で、説明を受けても疑問が残るなら、その点を改めて確認して構いません。


「施設にも事情がある」で終わらせない

介護現場は限られた人員で運営されています。設備や医療体制のために、本人や家族が望む対応をそのまま実施できない場合もあります

ただし、人員不足や施設の方針が本人の意思や尊厳を後回しにする理由になってはいけません。「現状では難しい」という結論を受け入れる前に、次の点を確認する必要があります。

  • 本人の希望と、実施できないことで生じる不利益を確認したか
  • 本人や家族を交えて話し合ったか
  • 別の方法を検討したか
  • 必要な制限が最小限になっているか
  • 結論と理由が記録されているか
  • いつ、どのように見直すか決められているか


職員同士で話し合い、記録を残すことは必要です。ただ、話し合ったという事実だけで結論が適切になるわけではありません本人の意思が検討され、代わりの方法を探した過程まで確認することが重要です


改善されないときは、外部へ相談する

施設へ伝えても改善されない場合や、施設へ直接伝えること自体に強い抵抗がある場合は、外部の窓口を利用できます


まず、契約時に受け取った重要事項説明書の「苦情相談窓口」を確認してください。施設内の担当窓口に加え、市区町村や国民健康保険団体連合会(国保連)などの連絡先が記載されています。

また市区町村では、介護保険や高齢福祉を担当する部署が相談を受け付けています。匿名で相談できるかどうかは自治体や相談内容によって異なるため、最初の連絡時に確認してください


国保連には、介護保険サービスについて正式に苦情を申し立てる制度があります。ただし、匿名での申立てを受け付けていない国保連があり、対象も介護保険サービスに関する一定の範囲に限られます。

損害賠償、法的責任、医学的判断などは取り扱えない場合があるため、自分の相談内容が対象になるか、居住する都道府県の国保連へ確認する必要があります


どこへ相談すればよいか分からないときは、まず市区町村の担当窓口に状況を伝え、適切な相談先を案内してもらう方法があります。


③入所後、家族はどう関わり続けるか

施設に入所した後、「どのくらい面会へ行けばよいのか」と悩む家族もいます。時に「頻繁に行けなければ薄情なのではないか」と自分を責めてしまうこともあるでしょう。

面会の頻度に、共通の正解はない

面会できる頻度は施設までの距離、仕事、育児、家族自身の健康状態や、これまでの関係によって変わります。一律に決められるものではありません。

介護現場に携わってきた私個人としては、可能であれば月に一度でも本人と直接話し、暮らしの様子を確かめる機会を持ってほしいと感じています。ただし、これは家族が守るべき基準ではありません。面会に行けない事情がある人へ、罪悪感を背負わせるための回数でもありません。


直接の面会が難しければ、電話やオンライン面会、手紙、施設からの定期的な報告など、別の関わり方もあります。大切なのは回数だけではなく、本人の声や変化に関心を持ち、必要なときに施設と情報を共有できることです

日々のケアは、施設の責任

施設へ入所したからといって、家族としての関係まで終わるわけではありません。一方で食事、排泄、入浴、健康管理などの日々のケアを家族が背負い続ける必要もありません。それらを担うことが施設の役割です。

家族が頻繁に面会できるかどうかによって、本人へのケアの質が変わってよいものでもありません。遠方に住んでいる、仕事や育児で時間が取れない、健康上の問題がある、これまでの家族関係から距離を置く必要がある。事情はそれぞれです。


家族にできることは本人を気にかけ、必要なときに声を聞き、気づいたことがあれば施設へ伝えることです。すべてを家族だけで担うのではなく、本人、家族、施設がそれぞれの役割を持ち、話し合える関係をつくっていくことが大切になります

家族だけで背負わなくてよいもの

施設入所後も「この先、本人はどうなっていくのだろう」「本当に入所させてよかったのだろうか」と悩むことはあります。その不安を抱くこと自体は自然です。

しかし本人の将来を一人で決める責任も、入所という選択が正しかったと証明し続ける責任も、家族だけが背負うものではありません。施設で起きるすべてを家族が防ぐこともできませんし、日々のケアの質を維持する責任は施設にあります


迷いが生じたときは家族だけで答えを出そうとせず、本人の言葉を聞き、施設の職員やケアマネジャー、生活相談員と共有してください。その時点で実行できる方法を、何度でも考え直してよいのです。

まとめ――家族が続けるのは、介護を背負うことではない

施設入所は家族が本人を手放すことではありません。同時に、家族が形を変えて介護の責任を背負い続けることでもありません。

「帰りたい」という言葉があれば、まず理由を確かめる。本人と家族の希望が異なるときは、どちらかを押し通すのではなく、現実に実行できる方法を探す。施設の対応に疑問があれば、本人の生活を守るために声を上げましょう。


家族に続けてほしいのは無理を重ねることではなく、本人を気にかけることです。そして本人の将来やケアに関する責任を、家族だけで抱え込まないことです。


ここまでお話ししてきたように、入所後の関わり方に一つの正解はありません。本人、家族、施設のそれぞれが無理なく続けられる形を、その時々で探していけばよいのだと思います。


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