「あれ、この間も同じ話をしていなかったっけ」
「財布が見当たらないと言って、また探し物をしている」
「なんだか、前より怒りっぽくなった気がする」
そんな小さな違和感を覚えたことはありませんか?
「年のせいかもしれない」「気のせいかもしれない」――そう思いながらも、心のどこかで引っかかっている。多くのご家族が、そうした揺れる気持ちを抱えながら日々を過ごしています。
全国の認知症の人の数は令和7年には約700万人になると推定されており、これは65歳以上の5人に1人の割合にあたります。決して他人事ではない病気だからこそ早期に気づき、正しく向き合うことが何より大切です。
この記事では、介護福祉士として15年以上現場に携わってきた経験をもとに、加齢による物忘れと認知症の違い、見逃したくない初期サイン、そして気づいたときにご家族ができることをお伝えします。
今回の記事を読むことで
- 「年のせい」と「認知症」の違いを見極めるポイント
- 見逃したくない4つの初期サイン
- 現場で見てきた、家族だからこそ気づけること
- 気づいたときの、本人を傷つけない伝え方と相談先
これらの内容がわかり、あなたの中の「もしかして」という不安が、次の一歩につながるきっかけになれば嬉しいです。
※本記事は診断を目的とするものではなく、気づきのヒントを整理したものです。気になる変化が続く場合は、まず専門機関へご相談ください。
「年のせい」と「認知症」、何が違うのか
まず知っておいてほしいのは、『加齢による物忘れ』と『認知症による物忘れ』には医学的に明確な違いがあるということです。
加齢による物忘れは、体験の一部を忘れる現象です。たとえば「昨日の夕食に何を食べたか」は思い出せなくても、「昨日夕食を食べたこと」自体は覚えています。
一方、認知症による物忘れは、体験そのものを丸ごと忘れてしまうことが特徴です。夕食を食べたという事実そのものが記憶から抜け落ちてしまうのです。
この違いは進行の仕方にも表れます。
加齢による物忘れは進行がゆるやかで、日常生活にはほとんど影響しません。しかし認知症による物忘れは、時間とともに判断力・理解力・言語能力・思考力にも影響が広がり、日常生活や社会生活そのものに支障をきたしていきます。
「そういえば最近、忘れっぽいね」と本人が笑って話せるうちは、加齢によるものであることが多いものです。しかし、忘れていること自体に本人が気づいていない場合は、注意深く見守る必要があります。

見逃したくない、4つの初期サイン
認知症の初期症状は、大きく分けて4つの領域に現れます。一つひとつを、現場での実感を交えながらお伝えします。
①記憶障害――「忘れたこと」を忘れてしまう
もっとも代表的なサインが記憶障害です。
記憶障害とは、記憶を思い出すことができない、また、新たなことを覚えることができないなどという、記憶に関する障害の総称である。一時的に思い出すことができない記憶は短期記憶障害、長期間思い出すことができない記憶は長期記憶障害と、2通りに分けられる。
この記憶障害では、以下のような行動が現れます。
- 食事の内容や、電話で話した相手の名前をすぐに忘れる
- 同じことを何度も言ったり、質問したりする
- しまい忘れや置き忘れが増え、常に探し物をしている
この中でも現場でたびたび見られるのが「物盗られ妄想」と呼ばれる症状です。自分で置いた場所を忘れてしまっているにもかかわらず、その自覚がないために「誰かに盗まれた」と思い込んでしまうのです。
これは当人の意地悪でも、家族への不信感からくるものでもありません。「置いた」という記憶そのものが存在しないために起こる、脳の機能低下による症状です。
介護の現場では、最も身近で介護に熱心な家族が疑われてしまうケースが少なくありませんが、それは「わかってくれるはずの人にわかってもらえない」という本人の苛立ちの表れでもあります。
②見当識障害――「今」がわからなくなる
見当識とは、今の時間や場所、周囲の人との関係を理解する力のことです。この力が低下するのが見当識障害です。
失見当識とは、見当識を失った状態のこと。見当識障害ともいう。時間や方向の感覚が失われたり、物事の相違を区別できなくなったりすることで認識力を失うこと。
具体的には、自分の名前や年齢、立場、自分と周囲との関係、日常生活における日付や時間、曜日、自宅の場所、距離、道順などを把握する能力が失われる。認知症の中核症状の一つである。認知症の場合、症状が進行するにつれて認識できない内容が時間→場所→人間関係へと拡大していくことが多い。また、失見当識は、外傷等による脳の損傷や脳卒中により生じた高次脳機能障害の症状としてもよく起こることが知られている。
多くの場合、最初に時間の感覚が薄れ、次に場所、そして最後に人間関係が理解しにくくなっていくという順番で進行します。
- 曜日や日付がわからなくなり、何度も確認する
- 通い慣れた道で迷ってしまう
- 家族の顔を見ても、一瞬誰かわからなくなる
「今日は何日だっけ」という質問が増えてきたら、それは見当識のサインかもしれません。
③遂行機能障害――「段取り」ができなくなる
遂行機能障害とは、これまで当たり前にできていた家事や作業の「手順」が、うまくつながらなくなる状態です。
遂行機能障害または実行機能障害とは高次脳機能障害のひとつである。
遂行機能とは目的を持った一連の活動を効果的に成し遂げるために必要な機能である。遂行機能は単一の認知作業ではなく、複数の過程を含むため研究者によって定義が異なる。前頭葉、特に前頭前野背外側部(前頭連合野)が遂行機能に関する中心的な役割を果たすと考えられている。そのため遂行機能障害は以下の機能が障害された状態と考えられている。
- 目標の設定
- 計画の立案
- 目標に向かって計画を実際に行うこと
- 効果的に行動を行うこと
料理でいえば、「野菜を切る→煮る→味付けする」という一連の流れが途中で止まってしまったり、味付けそのものを忘れてしまったりします。長年使ってきた家電の操作に急に迷うようになるのも、このサインの一つです。
厄介なのは、本人は「できるはず」という自覚を持っているため、うまくできないことに強い戸惑いや不安を感じているという点です。周囲から見ると単純な作業であっても、本人にとっては大きな壁になっていることを理解しておく必要があります。
④性格・感情の変化――「その人らしさ」が変わる
認知症は感情のコントロール機能にも影響を与えます。脳の前頭葉や側頭葉の機能低下が原因と考えられており、些細なことで怒りっぽくなったり、逆に何に対しても無関心になったりします。
これまで意欲的に取り組んでいた趣味や活動に興味を示さなくなることもあります。この変化は、家族から見ると「怠けている」「だらしなくなった」と映ってしまいがちです。しかしこれは本人の意思の問題ではなく、脳の機能変化によって引き起こされているものだということを、まず知っておいてください。

現場で見えてきたこと――家族だからこそ気づけるサイン
15年間、多くのご家族と接してきた中で感じるのは、認知症の初期サインに最初に気づくのは、専門職ではなく家族であることがほとんどだということです。
久しぶりに実家を訪れたときの「あれ、なんだか様子が違う」という直感。毎日顔を合わせているからこそ気づく「以前は几帳面だったのに、同じ服ばかり着ている」という小さな変化。こうした違和感は、他の誰にも代われない、家族だけが持つ観察力です。
大切なのは、その違和感を「気のせい」で片づけず、記録しておくことです。
「いつ」「どんな場面で」「どんな言動があったか」をメモしておくと、後に専門医へ相談する際、非常に貴重な情報になります。専門医は本人からの聞き取りだけでなく、家族が日常の中で見てきた具体的な変化を重視します。

気づいたとき、家族ができること
「検査を受けよう」ではなく、寄り添う誘い方を
「認知症の検査を受けよう」と直接的に伝えると多くの方が拒否反応を示します。そこには
- 自分が病気だと認めたくない
- 病気が発覚することへのおそれ
- 体調や気分の変化
このように様々な背景があり、プライドを傷つけない誘い方を工夫することが大切です。ただ、自分の症状について問い正されるような状況では、本人が周囲の人の表情や態度に敏感になりやすいため、
- 「体の健康診断のついでに、脳のチェックもしてみようか」
- 「私も最近、物忘れが増えてきた気がするから、一緒に行ってみない?」
このように「あなただけの問題ではない」という姿勢で誘うことで、受け入れてもらいやすくなります。
早期発見がもたらす、大きなメリット
「早期に気づいても、どうせ治らないのでは」と感じる方もいるかもしれません。しかし早期発見には想像以上に大きな意味があります。
認知症専門サイト|大阪府堺市のばば脳神経外科では、早期発見メリットとして「症状の進行を遅らせる」「生活の質の向上」「治療の効果の最大化」「ご家族の負担軽減」を挙げています。
また、認知症の前段階である「軽度認知障害(MCI)」の段階で気づくことができれば、なお良い結果につながる可能性があります。MCIと診断された方のうち、約16〜41%は適切な対策によって健常な状態に戻ると報告されており、早期の気づきがその後の生活を大きく左右します。
軽度認知障害(MCI)とは、認知症と健常な状態の「中間のような状態」
一人で判断せず、専門の窓口へ
「これって認知症かもしれない」と感じたら一人で抱え込まず、まずは地域包括支援センターに相談してみてください。
本人が受診を嫌がる場合、家族だけでの相談が可能です。今後の対応策を一緒に考えてもらえるだけでなく、認知症初期集中支援チームなど、専門職が自宅を訪問して支援につなげてくれる制度も利用できます。
利用料は無料ですので、気軽に問い合わせてみることをお勧めします。

【まとめ】「気づくこと」が最初のやさしさであるように
認知症の初期症状らしきものを見て「もしかして…」と思う瞬間は、決して楽しいものではありません。認めたくない気持ちや、これからへの不安が同時に押し寄せてくるものです。そしてその気持ちは当人も同じであり、認知症とは当人だけでなく家族を含めたチームで支え合うものです。
その第一歩として家族の違和感に気づけたということは、あなたが大切な人をよく見てきた証拠です。
認知症は「歳のせい」と片づけて済ませられるものではありませんが、決して恥ずかしいものでも、隠すべきものでもありません。早く気づき、正しく向き合うことは本人にとっても、支える家族にとっても、これからの日々を穏やかに過ごすための最初の一歩になります。
悩みを共有できる認知症カフェのみならず、あなたの住む地域や近郊でも、認知症に関する活動をされている方がいるかもしれません。一人で抱え込まず気になるサインがあれば、まずは身近な相談先に声をかけてみてください。
介護は頑張るものではなく、続けるもの。
そしてその始まりはいつも小さな「気づき」なのですから、家族やあなた自身を大切にする為の情報をこの記事やブログで身につけてもらえれば幸いです。
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