親の認知症が進み、同じ質問を何度も繰り返されたり、話した内容を忘れられたりするとついイライラしてしまうことがあります。そしてその後で「親に対してひどいことを言ってしまった」「もっと優しくしなければならないのに」と自分を責めてしまう方も少なくありません。
しかし、認知症介護でイライラしてしまうことは決して特別なことではありません。
この記事では、介護福祉士として15年以上現場に携わってきた経験をもとに、認知症介護でイライラしてしまう理由とその対処法についてお伝えします。
今回の記事を読むことで
- 認知症介護でイライラしてしまう理由
- イライラした時の具体的な対処法
- 家族介護の相談先
- レスパイトケアの活用方法
- 介護者自身の心を守る考え方
これらの内容がわかり、家族介護のイライラやストレスを減らして、家族と愉しく過ごせるようになりますので、ぜひ最後までお読みください。
認知症の親にイライラしてしまうのは誰にでもあること
「さっき説明したばかりなのに……」
「どうして何度も同じことを聞くの?」
あなたにもそのように考えてはイライラしてしまう経験はありませんか?
実は家族介護をしている方なら、多くの人が同じ悩みを抱えています。平成29年度厚生労働省の家族介護者支援マニュアルによれば、
日頃の状態でも、「わけもなくイライラとしてしまう」(49.8%)、「睡眠が十分でない」(41.8%)など疲労を感じている介護者が4割以上
という統計データもあり、数字の上でもイライラしてしまうのは誰にでもあることだとわかります。

あなたがイライラするのは愛情がないからではない
これまでご家族の相談を受けてきた中で度々聞いてきたのは、
「本当は優しくしたい」
「怒りたくて怒っているわけではない」
「昔はこんな関係ではなかった」
という言葉です。多くの方は親を大切に思っているからこそ苦しんでいて、愛情がないからイライラする訳ではないのです。
米心理学者ロバート・プルチックが提唱する『プルチックの感情の輪』(下画像参照)によれば、苛立ちの奥には別の感情が隠れていることがあります。

別の感情とは例えば、
・この先も介護が続くのではないかという「不安」
・元気だった親が変わってしまったことへの「悲しみ」
・誰にも頼れないことへの「孤独感」
などです。
私たちはこれらの感情を抱え続けることが苦しくなると、怒りや苛立ちとして表現してしまうことがあります。つまり介護中のイライラは「愛情が足りないから」「怒りっぽい性格だから」といった理由ではなく、不安や悲しみ、疲労のサインである場合も少なくありません。
例えばイライラを感じた時に「私は今、何に腹を立てているのだろう?」ではなく「私は今、本当は何を不安に感じているのだろう?」と自分に問いかけてみてください。怒りの奥にある感情に気づくことは、自分自身を労わる第一歩になるはずです。
認知症介護がつらいのは、同じことが繰り返されるから
家族が認知症になると
・同じ質問を繰り返す
・約束を忘れる
・物をなくしたと訴える
・説明したことを覚えていない
といったことが起こります。介護する側は毎日同じ対応を繰り返すことになり、精神的な負担が大きくなります。これらは認知症の症状として代表的なものであり、「認知症とは何か」を知ることでスムーズに対応できるようになります。
認知症介護でイライラした時の対処法
1. その場を離れる
もし感情的になった時は、まず距離を取りましょう。特に怒りが出てきた時にはついカッとなってしまうことがあり、その場に留まることであなたも家族も辛い思いをする可能性があります。
そうした怒りと適切に向き合う手法として『アンガーマネジメント』があります。アンガーマネジメントとは怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニングのことで、家族介護においても怒りとの適切な向き合い方を示します。

また「その場から離れる」具体的な手段として
・別の部屋へ行く
・深呼吸する
・温かい飲み物を飲む
これらの行動で、たった数分でも気持ちは落ち着きます。別の場所へ行くのが物理的な距離を取るのに対し、深呼吸や温かい飲み物を飲むのは心理的に怒りから離れる行為になります。
アンガーマネジメントの「6秒ルール」にあるように、怒りのピークである6秒の間、あなたから怒りを切り離す行為がイライラの対処法です。

2. 「症状がそうさせている」と考える
認知症の言動は本人の性格ではなく、症状の影響による部分があります。そのため「親がわざとやっている」ではなく「認知症の症状がそうさせている」と考えるだけでも気持ちが軽くなることがあります。
認知症はひとつの病気ではなく、さまざまな原因によって起こる症候群です。また主な症状には
・脳の障害によって直接起こる『中核症状』
・中核症状に加え、環境や心理状態などによって現れる『周辺症状(BPSD)』
この二つがあります。

認知症の種類や症状を知ることで「これは私に対しての振る舞いではなく、認知症の表れなんだ」と冷静に判断できるようになります。冷静になれると、認知症の症状によって親が辛い思いをしている姿が見られるようになり、その症状に合わせた対応を選べるようになるのです。
認知症の親と共に過ごすポイントは以下の3点です。
① 認知症による諸症状から生まれる「その人の世界観」を一旦認めること
② 「認知症になる前の姿」を求めないこと
③ お互いに無理をしないこと
認知症になる前となった後で変わるのは「認知症を患っているか否か」だけであって、それまでの家族関係は何ら変わらないことを踏まえ、時に症状に合わせつつもこれまで通りに過ごしていきましょう。
3. 完璧な介護を目指さない
介護は相手を大切にする営みなので「最初から最後までちゃんとやらないと」という意識が働きやすいものです。しかし、そうした完璧主義や責任感の強さは時に『介護うつ』を招きます。
介護うつとは、高齢の家族を在宅で介護する人が、悩みや不安によるストレス、心身の疲労などから、うつ状態に陥ること。ひとりで介護を抱え込んでしまうまじめな性格の人ほど陥りやすいとされる。身近な人がもとの状態に戻らないという喪失感や、自分の時間が確保できない拘束感などに起因するケースがよくみられる。
食欲がない、眠れない、といった初期症状が続くうちに、口数が減り、突然涙ぐむといった気分の変調が激しくなることが多い。また、ぼんやりしていることが多くなり、「つらい」とか「死にたい」などといった悲観的なことを頻繁に口にすることも典型的な症状である。
初期であれば、一時的な気分転換をするだけで介護を抱え込んだ緊張状態を解くことができるため、訪問介護やデイサービスといった介護サービスを利用するなどして自分の時間をつくり、よく眠って疲れをためないように心がけることがたいせつである。
2005年(平成17)に厚生労働省が親族を在宅介護している人を対象に行った調査で、うつ病の傾向をみる国際的な指標である「自己評価抑うつ尺度」を用いて調べたところ、23%という高い割合で軽度から重度の抑うつ状態がみられた。
このような状態にならないよう、100点を目指すより「今日は60点でも十分」という考え方が薦められています。何故なら介護は毎日の積み重ねであり、「どれだけ上手くできるか」よりも「どれだけ長くできるか」を求められるからです。
相手に良かれと思ってやってきたことが、あなたが介護ができなくなったその日から途切れてしまえば、介護を必要とする家族の生活・生命が危ぶまれます。もちろん相手をぞんざいに扱うのは問題ですが、介護の質を求めすぎて量の供給が絶たれてしまては元も子もないのです。
加えて、介護とは元々「その人ができないことを『介(たすけ)』『護(まもる)』」ものであり、介護を必要とする人が最後まで自分の力で生きることを前提としています。そのため「介護で100点を目指す」とは、ある意味で相手が自分で生きようとする力を損ねる可能性すらあるのです。
そのため、あなたが「今日は60点でも十分」と考えて自分を労ることは、介護を必要とする家族が長く自分らしくいられるためにも大切なことなのです。
一人で抱え込まないために|家族介護の相談先
介護は家族だけで抱え込む必要はありません。お住まいの市区町村には家族への介護を支えるためのサービスがあります。家族介護の相談先には主に「地域包括支援センター」「ケアマネジャー」「認知症カフェ」が挙げられます。
地域包括支援センター
地域包括支援センターは高齢者や介護に関する総合相談窓口で、介護保険の利用方法や認知症の相談など幅広く対応しています。
この地域包括支援センターはすべての市町村に設置されており、その場所は
①「地域包括支援センター ○○」(○○は介護サービスを受ける本人が住む市区町村名)で検索する
②市区町村の役所「高齢福祉課」「介護保険課」「長寿化」(自治体によって名称異なる)などの窓口へ行く、あるいは電話をかける
③市区町村の広報誌で地域包括支援センターの連絡先を調べる
といった方法でわかります。
ケアマネジャー
ケアマネジャーとは、介護や支援を必要とする方やそのご家族の相談に乗り、介護保険サービスを利用できるよう支援する介護の専門職です。
そのため介護保険サービスを利用している場合は、まずケアマネジャーに相談してみましょう。介護者の負担軽減についても一緒に考えてくれます。
介護保険サービスを利用していない場合は介護保険の申請から行うことになりますが、こちらは地域包括支援センターの担当者と相談することで解決していきます。その最中で担当のケアマネジャーも決まります。
認知症カフェ
認知症カフェとは、認知症の方やそのご家族、地域住民、医療・介護の専門職が気軽に交流できる場所です。主な特徴とできることは以下の通りです。
【情報交換と交流】
・ 認知症の当事者や介護者同士で、同じ立場だからこそ話せる悩みを共有できます。
【専門家への相談】
・ 介護福祉士や看護師などの専門職が常駐していることが多く、気軽に介護や医療の相談ができます。
【社会参加と息抜き】
・お茶やお菓子を楽しみながら、レクリエーションや趣味の活動を通じてリラックスした時間を過ごせます。
【利用に関する基本情報対象者】
・認知症の方、そのご家族、認知症に関心のある地域の方ならどなたでも参加できます。
【費用】
・1回につき100円〜300円程度のドリンク・材料費のみであることが一般的です。(詳しくは訪問先のカフェにお問い合わせください)
【開催頻度】
・月に1〜2回程度、公民館や介護施設、地域のカフェなどを会場にして開催されています。
認知症カフェは、開催場所を探すにはお住まいの地域によって「オレンジカフェ」や「物忘れカフェ」など独自の愛称で呼ばれることもあります。また開催場所や日時は市区町村によって異なるため、地域包括支援センターや市区町村の高齢者福祉担当窓口に問い合わせるとスムーズです。
お近くの地域の開催情報については、以下のような行政窓口のポータルサイトも参考にしてみてください。
同じ状況や悩みを抱える仲間と出会うことで、「自分だけではなかった」と感じられるのは大きな支えになります。

レスパイトケアを活用しましょう
レスパイトケアとは?
レスパイトケアとは介護者が休息を取るための支援です。介護者自身の心身を守るためにとても重要な考え方です。
レスパイトケアは、子どもまたは大人を介護する人に提供される計画的、もしくは緊急の、一時的なケアである。言い換えれば、「ケアする人のケア」である。
休息は、家族介護者の健康とウェルネスを維持し、外出先での配置を回避または遅延させ、虐待やネグレクトの可能性を減らすのに役立つことが示されている。結果に基づく評価パイロット研究は、休息が離婚の可能性を減らし、結婚を維持するのを助けるかもしれないことを示した。
レスパイトケアで利用できる主なサービス
デイサービス
デイサービスとは、要介護・要支援の高齢者が日帰りで施設に通い、食事や入浴などの日常生活上の支援や機能訓練(リハビリ)を受ける介護保険サービス。
主に日中の介護をお願いできます。
ショートステイ(短期入所)
ショートステイ(短期入所)とは、主に要介護認定を受けた高齢者などが短期間だけ介護施設に宿泊し、食事や入浴、機能訓練などの介護サービスを受ける制度。
数日間施設で過ごしてもらうことができます。
訪問介護
訪問介護とは、ホームヘルパーが利用者の自宅を訪問し、食事・入浴・排せつなどの身体介護や、調理・掃除・洗濯といった生活援助を行う介護保険サービス。
介護スタッフが自宅を訪問して支援を行います。
これらのサービスを利用することは手抜きではありません。あなたが介護を続けるために必要な選択です。ともすれば「家族介護=自由を代償にするもの」といった考えが根付いていますが、介護サービスを適切に利用すれば自分の時間を家族介護に捧げるような生活をする必要はありません。
今後介護人材不足によって介護サービスを利用するのが難しくなることが予想されるからこそ、家族による介護が無理なく続けられるよう今から学び、備えておくことが重要です。
まとめ 〜あなた自身をも大切にする介護を〜
今回は「認知症介護でイライラしてしまう理由とその対処法について」をテーマにお話ししました。
認知症の親にイライラしてしまうのはあなたが冷たい人間だからではありません。それだけ真剣に介護に向き合っている証拠です。また同じように悩んでいる方がたくさんいて、そうした仲間と出会える場所があなたの住む街にもありますから、一人で抱え込まずにまず相談するようにしましょう。
ですから、どうか一人で抱え込まないでください。
介護が必要なのは親だけではありません。介護をしているあなた自身にも支えが必要です。
介護は頑張るものではなく、続けるもの。
そして、あなたの心もまた大切にされるべき存在なのです。

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