「手取り15万からの介護士」の『豊かさ』を考える ③介護報酬改定

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令和元年賃金構造基本統計調査 結果の概況 産業別によれば、「医療・福祉」の平均年収は約221万~となり、月収手取りに換算すると「およそ15万ほど」となります。

この「手取り15万」という数字は一時期twitterのトレンドワードにも上がり、様々な意見が飛び交う状況にもなりました。

介護士にとっても身近な話題であり、数回に渡り「手取り15万からの介護士」の『豊かさ』を考えると銘打って「介護とお金」の話をしていきます。


今回は「介護報酬があがれば豊かになれるか」という、介護士にとって見逃せない話題についてお話ししていきます。

介護報酬の出処は

令和3年度介護報酬改定では、

「新型コロナウイルス感染症や大規模災害が発生する中で「感染症や災害への対応力強化」を図るとともに、団塊の世代の全てが75歳以上となる2025年に向けて、2040年も見据えながら、「地域包括ケアシステムの推進」、「自立支援・重度化防止の取組の推進」、「介護人材の確保・介護現場の革新」、「制度の安定性・持続可能性の確保」を図る。」

として、介護報酬の改定率が0.7%増となりました。(参照:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定について」)


これは簡単に言えば「介護サービスの種類によっては1回で支払われるお金が前より増える」ということで、介護サービス事業所やそこで雇われる介護従事者にとって収益がわずかに上げられるようになった、とも言えます。


介護報酬を得るためには介護保険制度に則った介護サービスを提供する必要があり、介護保険制度の財源は国の税金によるものです。

厳密には「国や都道府県、市町村に納めた税金」と「介護保険制度の被保険者(65歳以上の第一号被保険者、40歳から64歳までの第2号被保険者)が納める保険料」がそれぞれ50%となりますが、介護保険料は対象者の給料、年金から天引きされるため構造上同じです。


つまり「税金として国民から徴収するか、保険料として対象者から徴収するか」の差でしかなく、その対象には当然利用者や介護従事者も含まれます。

令和3年度介護報酬改定により介護報酬が0.7%増となった。

しかし介護報酬の財源は「税金として国民から徴収するか、保険料として対象者から徴収するか」によってまかなわれ、その対象には当然利用者や介護従事者も含まれる。

介護保険制度『利用者』の負担

介護報酬の負担を国民、さらには介護保険制度の被保険者が担うなか、特に注目すべきは介護サービスを「利用する側」、すなわち『利用者』です。


利用者はまず年金から保険料が徴収され、次に税金を納めることになります。

そのうえで介護保険制度の介護サービスを受けるなら、限度支給額内だと1~3割の自己負担を、支給額外もしくは制度枠外のサービスを受けるなら全額自己負担によって生活をしていく必要があります。

介護保険制度では要介護認定を受けたサービス利用者に対して要介護度に応じた「区分支給限度額」が支給される。利用者は自己決定によって要介護度に応じた介護サービスを計画していくこととなる。その支援をケアマネージャー等が行う。


このような背景から基本的に区分支給限度額内で一月分の介護サービスを配分するようにしますが、冒頭でお伝えしたように介護報酬が上がるというのは「介護サービスを1回受けるためのお金が増える」ということです。

それは介護サービスによっては介護報酬改定前なら支給限度額内で収められていたものが改定後には収められなくなる、すなわち利用者の全額自己負担分が生まれる可能性を含んでいるということにもなります。


実際「第103回(H26.6.25)社保審-介護給付費分科会 区分支給限度基準額について」によれば、要介護度が高くなる(多くの介護サービスが必要になる)につれ、限度額を超えて介護サービスを利用する方の割合が増えています(約6%)


そうは言っても「高齢の方には貯えがあるから少しくらい全額自己負担分が増えてもいいんじゃない?」と思う方もいるかもしれません。

しかし野村総合研究所の2019年アンケート調査によれば、「貯えがある」とされる日本の富裕層(純金融資産保有額が1億円以上)は133万世帯と言われていますが、これは全世帯のおよそ2%です。

(参照:野村総合研究所、日本の富裕層は133万世帯、純金融資産総額は333兆円と推計


仮に準富裕層(純金融資産保有額が5千万以上1億円未満)を加えるにしても約8%ですから、「介護サービスの一部が全額自己負担になっても貯えがあるから大丈夫」と言いがたい方のほうが圧倒的に多いのが現実です。


こうなると「できるだけ支給限度額内で抑えたい」と考える方が多数となりますから、介護サービスをどのように配分するかを定めたケアプランもそのように組まれることが多くなりますし、仮に限度額を超えるようになっても地域の社会資源や家族の介護力で補うことを考えます。

それでもどうにもならない場合に選択肢の一つとして「全額自己負担」が入り得るかもしれませんが、それが選べる方は限られている、あるいは本人ではなく家族がその負担を肩代わりする形になりかねません。


こういった背景を踏まえて、今一度「介護報酬が上がる」とはどういうことかを考えてみましょう。



介護報酬が上がるというのは「介護サービスを1回受けるためのお金が増える」ということであり、区分支給限度額が決められている以上、介護報酬が上がると介護サービスの利用回数を減らさなければ支給限度額内にサービスを収められないという事態が起きます。

そうなれば生きていくために必要な介護サービスを十分に受けられなくなり、必要な分の負担を利用者またはその家族が背負う形になります。


それは金銭面だけでなく「家族介護」のような物理的な側面も含みますから、介護報酬が上がることは利用者またはその家族にとっては「サービス減・負担増」の状態になり得るのです。

介護保険制度の利用においては介護度に応じた支給額が定められており、その額内では原則1~3割を自己負担、その額を超える分は全額自己負担になる。

そして介護報酬が上がれば介護サービスを1回受けるためのお金が増えるため、介護報酬が上がることは利用者またはその家族にとっては「サービス減・負担増」の状態になり得る。

介護サービス『提供者』の負担

それでは介護報酬が上がることで介護サービス提供者はその恩恵を受けられるのでしょうか?

この事を考えるうえで大切なのは「介護事業所が報酬を受け取れる条件とは何か?」という問いです。


国は社会福祉の一環として介護保険制度を設け、
その制度のもとに介護サービスを提供する事業所があり、
その事業所に雇われる介護士が働くことで、
最後に、そのサービスを受ける利用者・家族がいるのです。


であれば、介護事業所が報酬を受け取れる条件を満たすためには誰と向き合うべきか。

その答えが「国」や「介護士」になると「介護報酬が上がれば収益を増やせる」と考え、いかに効率的に介護サービスを提供するかに終始することになります。


しかし先ほどお話ししたように、介護サービスを受ける利用者には介護サービスを際限なく受けられるほどの金銭的余裕はありません。

できる限り区分支給限度額内に収めようと介護サービスの利用回数を調整しようとしますから、介護サービスによる利用者一人当たりにおける収益は介護報酬が上がろうとも大差ない、あるいは介護報酬が上がったことで利用回数が減り収益が下がることも予想されます。


もちろん介護事業者によっては介護サービスの提供だけを収益源としているわけではありませんから介護報酬の増加がすぐに懸念材料となるわけではありません。


しかし報酬改定による事務手続きの煩雑さに見合うだけのメリットがあるかは疑わしいところです。

例えば住宅型有料老人ホームであれば、それまで訪問介護として提供していたものが介護報酬が上がり限度額内に収められなくなることで入所サービスに置き換えることも出てくるでしょう。


それにもかかわらず「介護報酬が上がれば収益が上げられる」と考えてしまうのは早計で、「介護事業所が報酬を受け取れる条件は『利用者』にある」という事実と向き合えば、介護報酬の増加と収益の増加はイコールではないことが見えてきますね。


もし「それならお金の払える人だけ集めればいいじゃないか」と考えるのならば施設が利用できるのは「十分なお金のある人だけ」になるわけですから、「お金のない人は十分な介護サービスを受けられない社会」を生み出すことになります。

それが介護を提供する側にとって望ましい未来かどうか。

平均年収でどの世代よりも一般職より下回る介護提供者が「介護サービスを必要とする状態になったときにどちら側に属することになるのか」を考えれば、その良し悪しはすぐにわかることかと思います。


また「自分だけがそうすればいい」という考えはすぐに伝播するので前提として成り立ちません。

加えて「お金の払える人だけ集めた事業所・施設」が全国に乱立すればサービス・価格競争は免れませんし、そういった事業所・施設は度が過ぎれば人道的観点から非難の対象にされます。


前回の記事でもお話ししたように介護はどこまでいっても「福祉」の色を帯びる業界ですから、福祉の視点を欠いた介護は人をしあわせにできない時点で淘汰される構造にあるわけです。

そのため介護事業者及び介護士を含めた『介護サービス提供者』は「福祉の実現」のために収益を超えたところで介護サービスを行う必要が出てきますし、介護報酬が上がることでそのような無償の奉仕を行わなければならない事態が生まれる可能性も十分にあるのです。

「介護事業所が報酬を受け取れる条件は『利用者』にある」という事実により、介護サービス提供者もまた介護報酬が上がることで負担が増すこともあり得る。

また介護と福祉は切り離せず、両者を分断した議論は淘汰される。

まとめ 介護報酬改定と「豊かさ」

ここまで介護報酬改定がもたらすものについてお話ししてきました。

それは「報酬が上がるなら収益も上がって豊かになる」というシンプルな話ではなく、介護保険制度枠内にいる以上構造として「稼げない」事実を浮き彫りにする話となりました。


だからこそ「介護の豊かさ」を「心の豊かさ」で捉える必要がありますし、その心の豊かさを支える「生活(家計)」についてきちんと見直す必要があるわけです。

(参照:「手取り15万からの介護士」の『豊かさ』を考える ①介護の豊かさ ②家計を見直す



そしてそれらの中心に『自分』がいる以上、「自分と向き合う」ことは人生を豊かにするうえで欠かせないのです。


このブログでは「自分と向き合う」にあたって前田裕二さんの著書『メモの魔力』による自己分析をお勧めしています。

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ナカさん@しるしの魔術師(http://instagram.com/magicianofsign )

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