「手取り15万からの介護士」の『豊かさ』を考える ①介護の豊かさ

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介護
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令和元年賃金構造基本統計調査 結果の概況 産業別によれば、「医療・福祉」の平均年収は約221万~となり、月収手取りに換算すると「およそ15万ほど」となります。

この「手取り15万」という数字は一時期twitterのトレンドワードにも上がり、様々な意見が飛び交う状況にもなりました。

介護士にとっても身近な話題であり、数回に渡り「手取り15万からの介護士」の『豊かさ』を考えると銘打って「介護とお金」の話をしていきます。


今回は「介護の豊かさ」とお金がどのような関係にあるかについてお話していきますね。

自分の介護が「金銭的価値」を生み出せているか?

まず大前提として理解していただきたいのは、「介護士も一社会人であり、被雇用者である以上『お金を稼ぐ』という点でも働いている」ということです。

「点でも」というところが重要で、それは介護士さんの意思に関わらず「介護」というものは「福祉」の色を帯びる業界だということです。


その辺りは以前の記事

介護で稼ぎたいのか、人の役に立ちたいのか、どっち?
「勉強する介護士」が少ないのはなぜ?

でも触れたように、介護保険制度が社会保障費によるところが大きいため、「福祉サービス」を提供して報酬をもらう以上「人のしあわせを国の代わりに実現すること(=福祉の実践)」が必然的に求められているわけです。

ゆえに、このような事情の中で仕事をしている介護士さんは「福祉への理解」を深めなければ自分の仕事の本質をつかめなくなってしまいます。

福祉(ふくし、英: Welfare)とは、「しあわせ」や「ゆたかさ」を意味する言葉であり、すべての市民に最低限の幸福と社会的援助を提供するという理念を指す。

福祉 -Wikipedia-


「すべての市民に最低限の幸福と社会的援助を提供する」ことが福祉であって、介護をして儲けることを福祉とは言いません。

言い換えれば、手厚い介護をしてその報酬を自費で払えるような方に施すサービスは「介護サービス」をしているのであって「福祉サービス」をしているわけではない、ということですね。



であれば「給料が少ない」と思う介護士さんは、自分の職場が「介護サービス」をしているのか「福祉サービス」をしているのかを知る必要があります。

それは「お金の流れを知る」ことであり、自分が介護保険制度の報酬を受け取って仕事をしているのか、相手の支払いで金銭を稼いでいるのかがわかれば「この仕事で稼げるのかどうか(=給料が上げられるのか)」を見定めることができます。


介護保険制度の枠内で仕事をする以上、社会保障費の一部を他事業所と分け合うことになります。

適切に分配するため定員や職員配置など細かく規定が設けられており、「決められた範囲の収益しか上げられない」構造になっています。組織がひと月で稼げる額の上限がほぼ決まっているわけですから、その枠内で働く介護士さんの給料を上げるのが厳しいことがわかりますね。

このような「総量が初めから決まっているものを分配する状態」を「パイを奪い合う」と言い、介護保険制度のなかで働くというのはこの「パイの奪い合い」に参加することを意味します。



ですから、自分の仕事によってお金を稼ぐ、すなわち『金銭的価値』を生み出せなければ全体の収益を増やせず「給料として渡せるお金がない」ため、どれだけ働いても給料は上がりません。

「ない袖は振れぬ」というもので、ここを無視して「給料が少ないのはおかしい」といった問題提起をしたところで、それこそ現実離れした話です。


「そういう仕組みの中で働いているんだから、そりゃそうだよね」としか言いようがないのです。

< ここまでのまとめ >

介護で稼げるかどうかは介護で『金銭的価値』を生み出せているかで決まる。
また介護は「福祉」の色を帯びるため、「介護」「福祉」の比重を見極める必要がある。

「介護で稼ぐ」を数値で見る

もちろん昇進や資格取得によって給料を上げる術もありますが、以前の記事「介護の資格ってどこまで必要?」でもお話ししたように、時間と労力に見合うかどうかは考えなければなりません。

そしてそれは「なぜ自分は介護の仕事をするのか」という根本的な理由と向き合うことにもなりますから、「自分と向き合う」こと抜きに介護を続けるのは難しいです。


なぜなら「稼ぐ」という軸だけで介護の仕事を見ていくと、他業種の友人・知人、同年代が年月を重ねるごとに昇給していくのをただ眺めることしかできず、次第に心が追い詰められていくからです。



たとえば僕は40代男性ですが、CareerPicksの【最新版】年齢別の平均年収一覧(全年代対応)によれば40~44歳男性の平均年収は581万円となり、一方で厚生労働省の令和元年賃金構造基本統計調査 結果の概況 産業別によれば医療・福祉の40~44歳男性の平均年収は348.2万円になります。


二つのデータを一覧にまとめると以下の通りになります。

< 平均年収 一覧表 >

年齢全体(男)①医療・福祉(男)②(①ー②)全体(女)③医療・福祉(女)④(③ー④)
20~24歳284221.962.1249221.927.1
25~29歳404259.4144.6326245.980.1
30~34歳470291.5178.5315257.357.7
35~39歳528321.5206.5314260.953.1
40~44歳581348.2232.8319278.540.5
45~49歳635385.1249.9313277.135.9
50~54歳682438.6243.4322282.539.5
55~59歳686449.1236.9298279.318.7
※ 単位は万。全体は正規・非正規雇用、役員を含む。
(「全体」参照:【最新版】年齢別の平均年収一覧(全年代対応)
(「医療・福祉」参照:令和元年賃金構造基本統計調査 結果の概況 産業別


年齢・性別によって差がありますが、「『金銭的価値』を生み出せる職と財源が初めから決められている職との差はどの年代でも埋められない」ことは共通しています。

もちろんこの一覧はあくまで「平均」であって「中央値」ではないため、数値をそのまま鵜吞みにしてはいけません。稼いでいる人はどの職種であっても稼いでいるし、逆も当てはまります。


ただ「その職種で極端に稼げる人」というのはごくわずかで、実際にはこの「平均」よりも下回る年収で働いている介護士さんも多いはずです。

特に「手取り15万」というのはおよそ年収240~290万ほどですから、全体平均の20歳前後の年収かつ医療・福祉においては男性では30代前半までの平均年収、女性ではどの年齢での平均年収とおおよそ同じということになります。



ところで上のデータの「医療・福祉」は令和元年の統計のため、介護サービス事業所における勤続年数10年以上の介護福祉士について月額平均8万円相当の処遇改善を行う『介護職員等特定処遇改善加算』が反映されていません。

しかし20代前半から勤続年数10年後相当の「30代前半」で比較してみればわかるのですが、仮に月額8万円が給与に反映されたとしても男性は平均年収差が178.5万であるため、年間96万追加されたとしても平均には倍近くも及びません。

女性であれば逆転する可能性もありますが、それを期待して10年近く「稼ぐ」ことを目的に介護をするのを「豊かな人生」と言えるかは「時間と労力に合っているか」で考えてみるべきです。



こうして数値を見てみれば、「介護で稼ぐ」という手段がいかに非効率的かが見えてきますし、これならば他業種に転職して稼ぐほうがよほど理に適っており、現実的です。


また実際に転職するかは別にしても、「仕事はお金を稼ぐもの」と割り切るのであれば「他業種の給料がいくらか」は知っておいた方がいいでしょう。

言うまでもなく、稼げないところで稼ごうとするなら同じ時間と労力を使って稼げるところで稼いだ方がより希望に沿った人生を送れるのですから。


つまり介護で稼ぐというのは「沼にはまる」のと同じこと。
生涯かけても他の職種より稼げないという苦しみの中で働き続けることを意味するのです。

< ここまでのまとめ >

職業全体の平均年収で見れば「介護で稼ぐ」のがいかに非効率的かが見えてくる。
だからこそ「介護の仕事をする意味」を自分で見つけ出す必要がある。

「労働」の意味から介護の豊かさを考える

ここまで読まれた方は「介護で稼ぐ」という発想から脱却できたかと思います。
もしくは「介護で稼ぐ」ことの非効率ぶりに目が回る想いをされたかもしれません。


仕事をする、すなわち「労働」とは本来「お金を稼ぐ行為」ではなく「生活手段や生産手段などをつくり出す活動」のことを指します。

労働(ろうどう、英: Labor)とは、人間が自然に働きかけて、生活手段や生産手段などをつくり出す活動のこと(経済学)。

労働 -Wikipedia-


このように働くということは「価値をつくる」ことであり、「お金をもらう」ことではないのです。

それは「働いた分だけ給料がもらえる」わけではなく「(これだけ)働いているのに給料が少ない」というのもまた根本的に間違っている、ということです。


「働く」だけでは価値をつくり出しただけであり、それが直接「お金」になるわけではない。


この事実を理解した先にしか「介護の豊かさ」はないのです。


介護の仕事によって作り出せる価値とは「その人の生活をより自分らしく生きられるようにすること(個人の尊重・自立支援)」です。

その価値を「その人」が「自分のお金」で交換すれば「稼ぐ」ことになり、「国」が「社会保障費(税金)」で交換すれば「パイ(財源)の奪い合い」になるわけです。

「労働」の対価を

①個人が自分のお金で払う → 「稼ぐ」
②国が税金からまかなう → 「パイ(財源)の奪い合い」



では、多くの介護士さんは「稼ぐ」側か「パイを奪い合う」側のどちらにいるのでしょう。

「手取り15万」で議論を交わす現状を鑑みれば「パイを奪い合う」側の割合の方が多いのは容易に予測がつきます。

となれば、多くの介護士さんが「豊かさ」ではなく「稼ぐ」議論を盛んに行う現状から察するに介護の豊かさは「稼ぐ以外のところ」にあると言えますし、それは平均年収の数値データからも明らかです。


では、介護の豊かさとは何か。


それは人によって「ありがとう」という感謝の言葉であり、「人とのつながり」という絆でもあり、総じて「心の豊かさ」になります。


このように現実を見ているからこそ「稼ぐ以外のところ」、すなわち「心の豊かさ」に介護の豊かさがあると気づくわけですが、そのような「心の豊かさ」は時に非現実的と軽視されます。


しかし、稼げない構造に自分から入っておきながら「稼げない」というのも。
「これだけ働いているのだからもっと給料が高くなければおかしい」というのも。


これらは現実を見ていれば出るはずのない「非現実的な」想いなのですが、「介護で稼ぐ」現実を語ろうとするほどそういった非現実的な言葉が使われてしまい、結果「現実」を軽視してしまいます。


もちろん、気持ちとしてそう言いたくなる気持ちは痛いほどよくわかります。
僕にしても同年代と年間で200万以上収入に差が出ている事実に泣きたくなりました。


でも、この事実を受け止めなければその差を埋めることはできません。

「国は何やってるんだ」とか「施設は儲け過ぎている」といった批判ばかりしていても現状はたいして変わらないのですから。

< ここまでのまとめ >

介護の豊かさとは「稼ぐ以外のところ」、感謝の言葉や人とのつながりといった「心の豊かさ」にある。
そして、その現実から目をそらす方が非現実的である。

まとめ ~「現実」を見た先に「介護の豊かさ」がある~

ここまで見ていただいた通り、介護で稼げるかどうかは介護で『金銭的価値』を生み出せているかで決まります。

ここで言う『金銭的価値』とは「個人が介護サービスに対して直接お金を支払うこと」であり、介護保険制度の枠内にある「福祉サービス」の外側となります。


加えて介護というものは多分に「福祉」の色を帯びるため、自分の所属する組織が行うサービスの「介護」「福祉」の比重を見極める必要があります。

それは「福祉」が「すべての市民に最低限の幸福と社会的援助を提供する」理念を指し、福祉色が強い組織であれば「稼ぐ」という一点においては非効率的になるためです。


ただ、そうして「介護で稼げるか」を見ると多職種との平均年収と照らし合わせれば「介護ではどの年代でも年収差を埋められない」現実が浮き彫りになります。

この現実からわかることは「介護で稼ぐのは非効率である」こと、そこから転じて「介護は稼ぐ以外のところに価値を見出す仕事なのだ」ということです。


このような背景から介護は「ありがとう」といった感謝の言葉や「人とのつながり」といった絆がもたらす「心の豊かさ」を求める仕事となります。


そして今回何より大切なことは、時に非現実的と軽視される「心の豊かさを求める」ことが、客観的な数値から導き出された「現実的な判断」だということです。


では、その「心の豊かさ」をどのようにして感じればいいか、もしくは得られるのか。
それは「自分と向き合う」こと抜きに語れません。


なぜなら「心の豊かさ」を感じる主体は『自分』であり、「自分が何によって満たされるのか」はそれまでの自分の人生の中にその答えが隠されており、「自分と向き合う」ことでしか『自分の答え』を見つけ出すことができないからです。


この辺りを説明し始めると長くなりますので、「自己分析がまだ済んでいない方のための「メモの魔力」」にまとめた記事を読んでいただけるとより理解が深まるかと思います。


こうして「心の豊かさ」という心構えを踏まえたうえで、「手取り15万からの介護士」の『豊かさ』を考えていくことが現実的な対応策になります。


次回は「収入が上げられないならどうするか」という話をしてきますので、引き続きよろしくお願いいたします。

介護の豊かさを深めたいなら


介護ブログの他にも、介護ニュース等などを取り上げるnote、読書にまつわるアメーバブログを運営しております。



また僕が介護を考えるうえで参考になった書籍を紹介しますので、よかったら一度読んでみてください。


本からの学びは揺るぎない自信へとつながっていきます。

介護を自分の「感情」頼りにするのではなく、知識や経験に裏付けられた「事実」と併せて行うことで、介護はすべての人を豊かにしていくことができるのです。


一緒に学んでいきましょう。


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