家族のために食事を作る。祖父母の世話をする。幼いきょうだいを迎えに行く。そんな子どもの姿を見て、「しっかりしているね」「家族思いだね」と感心したことはありませんか。
この「家族を助ける良い子」という見え方の裏に見過ごされてしまうヤングケアラーの問題。この記事では、介護福祉士として現場に携わってきた立場からヤングケアラーという存在について、知っておきたいことを整理していきます。
今回の記事を読むことで
- ヤングケアラーとは何か、普通の「お手伝い」との違い
- 「中学2年生の5.7%」という数字が、本当に示していること
- 本人が「困っている」と言わない理由と、周囲が確かめたいこと
- 相談することで、家庭がどうなるのか
- 介護に携わる立場として、意識しておきたい視点
これらの内容がわかり、身近にいるかもしれない「頑張っている子」を、これまでとは違う目で見つめ直すきっかけになれば嬉しいです。
※本記事の統計・制度情報は、こども家庭庁等が公表する2026年9月時点の情報をもとにしています。調査の実施年度はそれぞれ本文に記載の通りです。お困りごとがある場合は、学校の相談窓口や、お住まいの市区町村のこども家庭センターにご相談ください。
ヤングケアラーとは。「お手伝い」との違いはどこにあるのか
子ども・若者育成支援推進法では、ヤングケアラーを「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」として、国や地方公共団体などが支援に努めるべき対象に位置づけています。
ここで大切なのは、「過度に」という部分です。家事や家族の世話をしているというだけで、すべての子どもがヤングケアラーに該当するわけではありません。本人に必要な時間が失われていないか、心身に重い負担がかかっていないかという点が見極めのポイントになります。
また世話の範囲は、高齢者の身体介護だけにとどまりません。病気や障害のある家族に代わる家事、幼いきょうだいの世話、目を離せない家族の見守り、心理的な支え、時には通訳といった役割まで含まれます。
同じ「夕食を作る」という行為でも、他に担う人がいて試験前や体調の悪い日には代わってもらえる場合と、自分が作らなければ家族が食べられない場合とでは、背負っている責任の重さがまったく違います。
「一日に何時間しているか」だけでなく、「休めるか」「代わってくれる人がいるか」「そのために諦めていることはないか」。こうした問いを通して、初めてその子の生活が見えてきます。

「中学2年生の5.7%」という数字が示すこと
2020年度に実施された国の調査研究では、回答した中学2年生5,558人のうち5.7%が「世話をしている家族がいる」と答えました。
ただし、この数字を扱うときには少し注意が必要です。これは全員が過度な負担を抱える「ヤングケアラー」だと判定された割合ではありません。また調査時点も2020年度のものであり、現在の状況をそのまま示す数値として扱うことはできません。
それでもこの数字から受け止めておきたいのは家族の世話を担う子どもが、決して特別な存在ではなく、私たちの身近にもいるということです。
ここから先は一人ひとりの状況を丁寧に見ていく必要があります。世話の内容も、頼れる大人がいるかどうかも、本人がどう受け止めているかも、一人ひとり違います。割合という数字だけでその子が背負っている負担の重さまでを説明することはできません。

「困っている」と言わない子にも、確かめたいことがある
家族の世話が毎日の生活の中に当たり前のように組み込まれていると、本人自身がそれを「負担」だと気づいていないことがあります。あるいは負担を感じていても、家族のことを悪く思われたくない、話した後に何が起こるのか分からないという思いから、口に出せずにいることもあります。
国の調査研究で作成されたガイドブックでも、こうした事情から信頼関係ができて初めて話せることがあるという点が示されています。本人と家族、双方を大切にする姿勢を持ちながら関わることが求められています。
周囲が気づくための手がかりとして、以下のような様子が考えられます。
- 家族の世話によって、睡眠や学習の時間が削られている
- 遅刻や欠席、予定の取り消しが続いている
- 家を離れている間も家族のことが気にかかり、落ち着けない様子がある
- 進学や就職について、自分の希望を話す前から諦めている
- 体調が悪くても、世話を代わってくれる人がいない
ただし、これは診断のためのチェックリストではありません。別の事情から同じような様子が見られることもあります。決めつけるためではなく、その子がどんな生活を送っているのかを知るための一つの手がかりとして受け止めてください。
声をかけるときは、いきなり核心に踏み込むのではなく
「最近、眠れている?」
「家のことで、時間が足りなくなることはある?」
というように暮らしの話から始めてみてください。すぐに答えが返ってこなくても、問い詰める必要はありません。話したくないことがあるのも自然なことです。本人が話せる範囲を尊重しながら、また話せる関係を残しておくことが何より大切です。

相談すると、家族はどうなるのか
相談を勧める側は「話してくれれば、力になれる」と考えていても、本人にしてみれば家族に知られることや、生活が急に変わってしまうことへの不安の方が大きいかもしれません。
その不安に対して「相談しても絶対に何も変わらないから安心して」と無条件に約束することはできません。伝えられるのは本人と家族の暮らしを支えるために、使える方法を一緒に考えるための相談だということです。
相談を受ける側には誰に何を伝え、その後どのように支援を進めていくのかをきちんと説明し、本人の意向を確かめる責任があります。相談を始めることと、実際に家庭へサービスを導入することはそれぞれ別の段階です。
本人が家族への情報共有を望まない場合には、支援者が個人情報を伏せた形で担当部署に対応方法だけを相談するという道もあります。一方で、虐待や安全に関わる重大な問題が疑われるときには保護や通告といった対応が必要になる場合もあります。
(「児童福祉法(第25条)」および「児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法・第6条)」)
「誰にも言わない」と無条件に約束するのではなく、相談内容がどう扱われるのかを丁寧に説明することが欠かせません。家族への連絡について不安があるのであれば、その不安自体を最初に窓口へ伝えてしまって構いません。

相談先と、負担を分かち合うための支援
どこに相談すればよいか迷ったときは学校の先生や養護教諭、スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラーが、最も身近な入口になります。
学校の外では市区町村のこども家庭センターやヤングケアラー担当窓口、都道府県の相談窓口、地域の支援団体などがあります。
支援は悩みを聞くことだけでなく、本人が担っている世話そのものを減らすことまで視野に入れる必要があります。
| 主な困りごと | 相談・支援の選択肢 |
|---|---|
| 高齢の家族の介護 | 地域包括支援センターやケアマネジャーへの相談、介護保険サービスの利用調整 |
| 病気や障害のある家族の世話 | 医療機関の相談員、障害福祉窓口、障害福祉サービスなど |
| 幼いきょうだいの世話や家事 | 子育て世帯訪問支援事業、保育などの子育て支援 |
| 勉強や進路への影響 | 学習支援、進学相談、学校との調整 |
| 18歳以降の生活や仕事 | 子ども・若者総合相談センター、就労支援など |
| 孤立や気持ちの負担 | 居場所、心理支援、同じ立場の人と話せるピアサポート |
これらはあくまで支援の候補です。対象年齢や利用条件、費用、地域での実施状況はそれぞれ異なります。本人と家族の状況に合わせて、利用できる制度を一つずつ確認していくことになります。
話せる相手ができたとしても、家に帰れば同じ量の世話がまた待っていることもあります。気持ちを支えることと、生活上の負担そのものを減らすことを並行して進めていきたいところです。

18歳になっても、支援が必要な人はいる
2024年6月の法改正では、ヤングケアラーが支援に努めるべき対象として法律上に明記されました。
ここで知っておいていただきたいのは、この支援は18歳未満だけを対象としているわけではないということです。国の施行通知ではおおむね30歳未満を中心に、状況によっては40歳未満も対象となり得るとされています。
高校を卒業したからといって、家庭で担ってきた世話がその日を境に終わるとは限りません。進学先や働く場所を選ぶときにも、家庭での役割が影響を及ぼすことがあります。学校とのつながりが自然と薄くなっていくこの時期にこそ、次に頼れる相談先を知っておくことが大切になります。
国の「ヤングケアラー支援プラン」でも若者世代への支援や、就労分野との連携、家庭全体への支援、当事者本人の声を聴くことなどが示されており、本人と家庭全体を支える切れ目のない支援を推進する計画となっています。
【支援プランの4つの柱】
早期把握・多機関連携: 関係機関による気づきと情報共有の強化、実態調査や多言語対応の推進。
家庭まるごと支援: 本人と家庭全体へのアプローチ、信頼関係の構築、コーディネーターの役割整理。
多様なニーズに応える支援策の推進: 若者世代の就労・進学支援、家族へのヘルパー事業や心理支援の拡充。
社会的認知度・理解の促進: こどもの権利の観点からの理解促進と、当事者等の意見を反映させる取り組み。
全国どこでも同じ支援がすぐに受けられるという意味ではありませんが、学業や就職、その後の暮らしまでを含めて支えていこうという方向性が少しずつ形になりつつあります。

介護に携わる立場として、子どもの頑張りを前提にしていないか
介護職やケアマネジャーは、利用者のご家庭が日常生活をどのように支え合っているかを間近で知る機会がある立場です。その中で、家族の一員である子どもにもその子自身の生活がある、ということを忘れずにいたいと思っています。
たとえば、ケアプランを考える場面で「同居しているお孫さんが食事を用意できる」という情報を得たとします。しかし、その情報だけをもとに支援の内容を組み立ててしまう前に、その子の年齢や学校生活、実際の負担、そして代わりを担える人がいるのかどうかをきちんと確かめる必要があります。
国の資料でも、ヤングケアラーを含む同居家族がいるという理由だけで訪問介護の生活援助を一律に利用できないとするものではない、という整理が示されています。「その子ができること」と、「その子に任せ続けてよいこと」は、分けて考える必要があるのです。
気になる状況があれば本人が担っている世話の内容と生活への影響を、確認できた事実として記録しておく。事業所内や担当のケアマネジャーと相談し、必要に応じて自治体の担当部署へつなぐ。そして支援を始めた後も、その子に休める時間ができたか、学業や本人の希望が後回しにされていないかを継続して確かめていく。
こうした関わりを、介護の支援計画の中にも当たり前のこととして組み込んでいきたいと考えています。
ご家族にも、病気や障害、仕事、経済的な事情など、それぞれの背景があります。家庭が抱える負担を、外部の支援によって分かち合うことは世話をする子どもと、世話を受けるご家族、その両方の暮らしを支えることにつながります。

まとめ――家族を想う気持ちを、一人で背負わせないために
家族を助けたいという気持ちはとても尊いものです。その気持ちを否定する必要はまったくありません。
しかし、その気持ちを持ちながらも、自分自身のために学び、休み、将来の進路を自分の意思で選べること。その余地がその子にきちんと残されているかどうかを、周囲の大人や私たち専門職が確かめていく必要があります。
「偉いね」「しっかりしているね」という言葉だけで終わらせず、その一歩先にある、その子自身の暮らしにも目を向けてみてください。頑張っている姿の裏側に一人で抱え込んでいる何かがないか。そう問いかける視点を持つことが、誰かに気づいてもらえるきっかけになるかもしれません。
介護は頑張るものではなく、続けるもの。
そしてそれは、支える立場にいる大人だけでなく、家族を支えようとする子どもたちにとっても変わらない願いなのだと思います。

ヤングケアラーをもっと詳しく知りたい方へ
この記事でお伝えした内容はあくまで制度や統計を中心とした概要です。ヤングケアラーと一言でいっても、その経験は一人ひとりまったく違います。
統計や制度だけでは見えてこない、一人ひとりの複雑な思いに触れたい方には『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護
』(澁谷智子ほか著)をおすすめします。
7人の元当事者自身が書き下ろしたそれぞれの経験が綴られており、家族への複雑な想い、ケアがもたらした苦しさと同時にあった気づきまで、率直な言葉で語られています。この記事で繰り返しお伝えしてきた「一人ひとりが違う」ということを何より雄弁に語ってくれる一冊です。
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