資格を取るって本当に大切? ⑥一線を越えてしまったら

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介護
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前回の記事「介護の資格ってどこまで必要?」では、資格の定義から現存の資格を捉え直したとき

「介護の資格は取る『必要』はなく、取る『目的』がある場合に取ればいい」

というようなお話をしました。
「何がしたいか」を見失って「こうすべき」という周囲の論理で資格を取るのは危ういですよ、とも。

今回は「それでも資格があった方が良いんじゃない?」と思う方に、介護の仕事のために8つの資格を取った僕が実際にどれだけのものを費やしたのか。


そのエピソードを何回かに分けてお話していきます。

居宅介護支援専門員(ケアマネージャー)を目指す

資格の話も残すところ「居宅介護支援専門員(ケアマネージャー)」のみとなりました。

そしてこの資格での体験が「なぜ資格を取る『目的』こそが大切なのか」をお伝えする格好の例となりますので、次回と合わせて後二回お付き合いくださいね。


僕がケアマネージャーの資格を取ることになったときの話。
まずはその時の状況を簡単にお話しします。


当時の僕は自分の担当施設を合わせた三施設のエリア担当となり「サービス提供責任者」を指導する立場にありました。

サービス提供責任者に訪問介護の書類作成や現場職員への教育をアドバイスする傍ら、訪問介護における事務処理や契約、訪問介護計画書等の作成や介護記録のチェックなど「介護」に関わるすべての責任を負う仕事をしていました。

また施設見学や苦情対応、毎月のシフト調整に職員の人間関係の調停といった施設長代理のような業務もしていました。


これがおおよそ三施設分です。
そこに加えて現場で通常の介護も行い、時に他施設の応援にも赴いていました。


これがどれくらい異常な働きぶりなのか、おそらく同じ介護士さん、サービス提供責任者の方であっても正確には想像できないと思います。

想像しようとしてもその苦労はどこまで行っても「一施設分で収まる範囲」ですから、当時の僕の働きぶりは多くの介護士さんにとって「未知の領域」になります。


そして、僕はその「未知の領域」にありながらケアマネージャーを目指していました。


ケアマネージャーの勉強はエリア担当になる前から少しずつ進めていました。
しかしどうにも勉強時間が足りず、試験を受けるのを後回しにしていたのです。


それでもケアマネージャーは「いつか取ろう」と決めていた資格でした。

元々大学の講義で「社会援助技術」について学んでいたのと、派遣社員として初めて働いた施設で出会ったケアマネージャーさんから「取れるなら取ってみなさい!」と自慢されたとき「そんなにすごい資格なのか~!」と思ったのが事の発端で。

そして介護職として働くうちに「合格率1割弱」の難関資格だと知り、この資格さえ取れば介護職の資格は修めたも同然だと思いました。

実際に僕より先にケアマネージャーを目指している人が何年も不合格をもらい続けている姿を見ていましたから、これは相当な準備がいる資格だと心していたのです。


こうして数年前から着々と勉強を進めていき、エリア担当になった時点で「これはいよいよ今年中に資格を取らなければ勉強する時間が無くなる」と思いました。

当時所属していた施設は居宅介護支援事業所も抱えており、ケアマネージャーを取ればそちらへ配属されることが示唆されていたのも受験理由として挙げられます。


先ほどお話しした通り尋常ではない働き方をしていましたから、そこから脱却する道筋は早いうちから手に入れておくべきだと思ったのです。

当時の状況で言えば「年間雇用者数と退職者数がほぼ同数」「サービス提供責任者不足」「他施設連携が困難」「責任者レベルで企業理念が喪失」「職員間の不信感と派閥」といった問題を抱えていましたから、少なくとも変化を求めなければ状況は好転しなかったのです。

一線を越える

当時の一日のスケジュールの目安は以下の通りです。


<早番>
朝5時~ 起床 出勤準備
朝7時~ 早番業務 事務処理 書類チェック、職員聞き取り等
夕4時~ 早番上がり → 片道1時間ほどでエリア内他施設①へ移動
夕5時半~ 他施設①にてサービス提供責任者への指導、書類チェック、職員聞き取り等
夕6時半~ 片道30分ほどでエリア内他施設②へ移動
夜7時~ 他施設②にてサービス提供責任者への指導、書類チェック、職員聞き取り等
夜9時~ 片道30分+夕飯30分で帰宅
夜10時~ 自由時間

<日勤>
朝7時~ 起床 出勤準備
朝9時~ 日勤業務 事務処理 書類チェック、職員聞き取り等
夕6時~ 日勤上がり → 片道40分ほどでエリア内他施設②へ移動
夜7時~ 他施設②にてサービス提供責任者への指導、書類チェック、職員聞き取り等
夜9時~ 片道30分+夕飯30分で帰宅
夜10時~ 自由時間

<遅番>
朝9時~ 起床 出勤準備
昼12時~ 遅番業務 事務処理 書類チェック、職員聞き取り等
夜9時~ 片道30分+夕飯30分で帰宅 もしくは事務処理のため0時くらいまで残業
夜10時~ 自由時間(帰宅時)

<夜勤>
昼2時~ 夜勤準備
夕5時~ 夜勤業務
夜9時~ 戸締り 夜間巡視開始 諸々介助 事務処理等
翌朝9時~ 夜勤終了 事務処理後、日によって片道1時間ほどでエリア内他施設①へ移動
朝11時~ 他施設①にてサービス提供責任者への指導、書類チェック、職員聞き取り等
昼12時~ 日によって片道40分ほどでエリア内他施設②へ移動
昼1時~ 他施設②にてサービス提供責任者への指導、書類チェック、職員聞き取り等
昼2時~ 片道30分+夕飯30分で帰宅
昼3時~ 就寝


といったスケジュールをこなしていました。

ここに「施設見学」や「契約」、時には職員から臨時の応援要請などが入るため実際の働きぶりは推し量っていただければ幸いです。

当然のことですが、そういった決められた勤務以外の行動はすべて自主的に行っているものなのでその時間帯は「勤務」には当たりません。しかしその時間を使わなければ毎月の業務が終わらないため、あくまで自主的にやる必要がありました。

まして休みは…この辺りも推し量っていただければと。


見ていただいた通り、仕事をこなすだけでも「人」としての心・身体を捨て去って「一線を越える」しかありませんでした。

この状況でなお「合格率1割弱」のケアマネージャーを目指すというのは本来なら無謀を通り越して不可能です。


こうした状況下でどう勉強するか。
業務の中で学んでいくよりほかありません。

それは「休憩時間を使って勉強する」という学び方ではなく、利用者さんのケアプランを思い出しながら「どのような理由から、何を目的として今この時間に介助を行うか」をつぶさに確認し、それらを意識して介助を行う学び方になります。


これをやるためには施設内利用者全員分のケアプランを一言一句頭の中に叩き込むことが必須ですが、それ自体はサービス提供責任者の業務としてやるべきことなのでハードルはそれほど高くありません。

それよりも「このケアプランが組み立てられた背景は何か」「このプランを実行することで半年ないし一年余りでどのような変化をもたらすことが想定されているか」「このプランが現実にはどうなっているか」といった現場でしか見聞きできないことから学びを深めることが大切です。

実際に試験を行い「どれが正解だろう?」と悩むとき、「学んだ知識ではどうだったか」と「現場ではどうだったか」を照らし合わせることで正解を導き出すことが多かったです。


普段の業務からこの視点を持てば現場の問題点も浮き彫りにできますから、資格勉強は現場で活かしてこそ価値があると言えます。教材は文字や表だけではなく現場にいくらでも転がっているのです。


ですから、「大学時代での基礎勉強」「介護福祉士としての知識」と「社会人になってからの経験」をうまく組み合わせることでケアマネージャーとしての勉強を毎日行うことが出来ました。

この「大学時代での基礎勉強」には医学概論や介護支援分野も含まれていましたから、大学時代がむしゃらに勉強した成果がここで発揮されたわけです。

僕が明確に「ケアマネージャー『試験』のため」だけに勉強したと言えるのは試験前日の過去問題集を解いたときだけで、それ以外では「現場でどう活かせるか」という視点でケアマネージャーの勉強をしていたのです。


試験当時は介護福祉士試験と同じように全く勉強せずに最善のコンディションを保って挑み、周りが試験への不安や動揺を隠せない中で悠々と問題を解いていきました。


そうして「周りがどれだけ勉強しているか」「合格率が1割弱」といった状況に惑わされず、ただ自分がその学びをどう活かしていくかだけを問い続ける勉強法は、ここでも「合格」を導きました。

その代償は

ケアマネージャーの資格は試験に合格して終わりではありません。合格後には介護支援専門員実務研修の受講と都道府県への登録が必要になります。

当時実務研修は試験の翌年2月に行われることになっていましたが、僕はその2月上旬に大きな転換期を迎えました。異常なまでの仕事量と人間関係の調整などからストレスを抱え込み、心臓を傷めて倒れてしまったのです。


心療内科の診断結果では「心身症」と診断され、症状が回復するまで一切仕事をせずに心身を休めるよう言い渡されました。

心身症(しんしんしょう、英: psychosomatic disease)は、その身体疾患の症状発現や症状の消長に心の問題の関与が大きい身体疾患の総称。何らかの身体的な疾患が、精神の持続的な緊張やストレスによって発生したり、症状の程度が増減する。身体的な検査で実際に異常を認めることも多い身体疾患であるが、症状の発生や、症状の増悪に心因が影響している疾患をさす。

心身症 -Wikipedia-


無理に無理を重ね、一線を越えてまでして得られたものはたった一つの「合格」と、癒え切ることのない「死に至る痛み・恐怖」でした。


心療内科の先生からは「通常心身症は首や肩、腰などに症状が出るのだけれど、あなたの場合は珍しくそれが心臓に出ている」と言われました。「だから心臓に負担を掛けないためにも今はゆっくり寝て休みなさい」とも。

僕はその言葉に従い、自分の状況を施設に報告したうえで一か月療養することにしました。
この時の心情はとても一言では語りきれないので、また別の機会にお話ししますね。



先ほどもお話ししたように、療養中には実務研修が実施されます。
しかし診察を受けた時点では到底研修を受けられるはずがありませんでした。


この時の状態を端的に述べれば「なぜ自分が生きているのかわからない」ほどの痛みと苦しみ、不安やその他諸々の感情が渦巻いて、まともではありませんでした。一秒後に自分が息絶えるかもしれない痛みと恐怖と強制的に向き合わされるというのは、およそ常人の想像が及ぶ領域ではないでしょう。


それでも。


研修実施日に近づく前にはその痛みの頻度が「常に」から「十数秒に一度」くらいには和らいでおり、強度も治まり始めていて多少動き回ることができるようになっていたのです。

また療養中は1週間に一度くらいのペースで上司に自分の状態を電話報告していました。この報告ですら電話に苦しめられる僕には苦痛でしたが、上司のほうから電話が掛かってくる以上応えないわけにもいきません。


通知音・着信音が鳴るたびに心臓が激しく痛むにもかかわらず、律儀にそれに応じようとした僕はやはりどこか壊れていたのでしょうね。

そして律儀に応えた結果「できるならケアマネージャーの資格は取っておけ」というアドバイスを受け取ってしまったのです。

まず誤解のないようにお伝えすると、このアドバイス自体は僕を気遣った結果生まれたものです。

上司は僕が仕事を抱え込み過ぎていることを理解していたからこそ、ケアマネージャーの資格を取らせて現場から僕を切り離そうとしてくれたわけです。それだけに僕はその想いに応えようと思ったわけですから。


心臓の痛みは治まらないが、和らいでいる。
良くも悪くもこの痛みに慣れてパニックになることもなくなった。やれなくはない。

何よりも自分が抜けた穴を埋めるために頑張っている人たちがいる。
動けるなら動くべきだ。


そう考えて、僕は心身ともにボロボロな状態にもかかわらず実務研修を受けることを決めました。
それが「トドメ」だとも知らずに。

~ つづく ~


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